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(確かにちょっと臭いもんな)
ヒナゲシは青ざめながら正座した。雪で顔色真っ白だっので、青ざめてもあんまりわからないが。
「とりあえず熊は置いとこうか」
「うん」
ぽい、と放り投げるとぐしゃあ! と壁を破壊して外に飛んでいってしまった。ヒナゲシが寒そうなので、すぐに壁を直す。
「もうちょっと丁寧に扱おうぜ」
「そっと置いたよ」
「マジか。えっとな、俺は君に会いにきたわけよ」
その言葉が、頭の中を駆け回った。
(俺に会いにきた……)
ドキドキと心臓が高鳴る。嬉しい、とても。
「なんで?」
「あー、君さ。むかーし、他の子どもたちと……」
「雪合戦で遊んだ」
「ああ、そう……遊んだのね。で、俺の働いてる所とにかく人手不足で。君たち誰か就職しない? って誘ったけど全員から断られて。そしたら、皆が君の話したわけ。君が一番適任だってさ。じゃあその子誘ってみようかなって」
「みんなが」
(嬉しい、気にかけてくれてたんだ。あっち行け、なんて言われたけど。言い過ぎたと反省して、心配してくれてたんだ)
「俺が寂しくないように、気を遣ってくれたのか。みんな優しいな」
「え? ああ、そうね」
なんか、聞いてた話と違うんだよなあ、と。地獄の鬼のヒナゲシは思った。
一般的に知られている地獄は灼熱、熱に関わる拷問が多い。それとは真逆の「八寒地獄」というものが実は存在する。あまりにマイナーで現世に資料はほぼない。
どんな地獄なのか、どんな者が落ちるのかも詳細は知られていない。大昔の人が「熱と寒いのセットの方がかっこいいんじゃね?』というノリで作って、設定が全然バズらなかった説が濃厚だが一旦おいといて。
地獄への就職は公務員みたいなもんだ。俺はたまたま東北地方で生まれ育った鬼だったから、問答無用で八寒配属が決まった。
八層全部おりて見学したけど、まあ吹雪しかねえわ。あっちの地獄に比べると亡者もいないし、これいわゆる窓際族ってやつだろうかと思っていた。同僚もいない。
俺一人は無理! と上司に訴えたところ、じゃあスカウト行っておいでと現世に放り出されて。しぶしぶ雪国を渡り歩いたわけだけど。
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