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第3話 過去
高校3年生になったばかりの4月、両親が離婚した。
どうして……大学受験を控えたこの時期に……
わかってる。
今までだって、あの人たちは勝手だったし、わたしの事情なんてどうでもいいんだよね。
「いろいろ考えたんだけど、あんたは父方の籍に残った方がいいと思うのよ。お父さんは正社員だから。大学の費用だって、塾の費用だって必要でしょ?」
母は既に一人で決めていた。
「わたしは実家に帰るから、あんたも来なさいよ。あんた一人じゃ何もできないんだから」
そこにわたしの意思なんて存在しない。聞いてももらえない。
もうここから狂い始めていた。
わたしは言ったのに。「離婚なんてしないで」って。
そうしたら、
「あんたがそう言うんだったら、離婚はしない」
そう言った次の日、母は離婚届けを出した。
父は、そんな母を止めるわけでもなく、どうでもよさそうだった。
国立大学も余裕で狙えると言われていた成績はみるみる落ちていった。
あの人たちのことが頭から離れなくなって、英単語も覚えられなくなってしまった。数式の途中に、あの人たちが言ったことが何度も浮かんで、計算ができなくなった……
よくドラマなんかである、親の離婚くらいでグレるなんて設定、嘘っぽいって思ってたけど、実際自分の身に起こると、それがリアルだってわかった。
親は親、自分は自分、なんて切り離して考えられなかったのは、きっと、わたしのこれまでが、両親の言いなりの生き方だったから。
結局わたしは大学受験に失敗し、聞いたこともないような県外の大学の二次募集になんとかひっかかって、そこに通うことになった。
そうまでして大学に行かなくてもいいんじゃないかと思ったけれど、「大卒」じゃないといけないと、父に強く言われた。
父は家庭に無関心で、毎日前後不覚になるくらい酔って帰って来ては、母やわたしをを罵った。理由はいつも些細なことで、玄関の靴が揃えられてなかったとかそんなこと。
そんな父のことを母は「また浮気してたのよ」と、わたしに言った。
どうしてそんなことを当時小学生だったわたしに、毎回わざわざ言うのかわからないでいた。
母が言うことが本当のことかどうかわからなかったけれど、父には「結婚した時からずっと他所に女がいる」らしかった。その人との結婚を祖母に反対されて仕方がなく母と結婚したんだと、母はわたしに告げた。
家族旅行の記憶もない。
遊んでもらった記憶もない。
友達の家に遊びに行った時、家族みんなでトランプをする姿に驚いたことがある。お父さんもお母さんも子供と遊ぶんだ、って。
受かった大学が県外だったから、ここでようやく、あの人たちの元から解放された。
他の新入生たちが、親と家探しや必要な物を揃えるために買い物に行く傍らで、一人でなんとか賃貸借契約を結び、引っ越しの手配もガスや電気、水道の契約も、自分で調べて行った。
「自分のことは自分でしなさい」
そう言われていたから。
それでも、そこはようやくわたしが手に入れた平穏な場所になった。
誰からも悪口を聞かされないで済む毎日は、穏やかで静かな日々で、両親と離れて、初めて幸せを知った。
でも、それは長くは続かなかった。
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