第5話 知らない部屋

1/1
前へ
/21ページ
次へ

第5話 知らない部屋

目を開けると、知らない部屋のベッドの上にいた。 起き上がると、ベッドにすがってテレビを見ている久保崎くんがいた。 「目覚ましました? 大丈夫ですか?」 「なんで?」 思わず自分が服を着ているか確認する。 「眠ってる先輩に変なことしませんよ」 違う。無意識にバカなことをやってしまったかと思っただけ。久保崎くんを疑ったわけじゃない。 「電話切った後、急に倒れたから僕ん家に連れて帰りました。僕が電話に出た方がいいって言ったから、責任感じてます」 「久保崎くんのせいじゃない。本当にごめん……迷惑かけて。今何時?」 「8時すぎです。会社には直帰するって連絡入れときました」 「ありがとう」 「先輩、僕……」 そう言いながら、ベッドに乗ってきた。 「待って。同じ会社の人とはちょっと……」 「同じ会社じゃなかったらOKってことなんですか?」 少し驚いた顔をされた。そういう意味じゃなかった? 「あぁ、それは……」 「じゃあ、会社辞めようかな」 「何言ってるの?」 「僕、あんまり今の仕事に執着してないんで」 「そうじゃなくて……」 「僕と付き合いませんか?」 「そんなにやりたいってこと?」 「あぁ……まぁ……」 「いいよ。付き合ったりする必要もない。その代わり条件がある」 「何でも聞きます。でも、お金はそんなにないです」 「お金じゃないよ。会社ではこれまで通りに接して。何もないみたいに」 「はい」 「それから……わたしがしたい時には必ず応じて」 「えっと……僕がしたい時はどうなるんですか?」 「いいよ」 「セフレってことですか?」 「そんなとこ。一応確認しとくけど、結婚は?」 「してないです」 「それならいい」 「……本当にいいんですね?」 そう言うとキスをされた。 ああ、この子はキスをしてくるタイプの子なんだ。 それに、わたしにふれる手が……優しい…… 思考はそこで止まる。 わたしはもうずっと、こうするしか、あの人たちを追い出す方法を知らないでいる。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加