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口数が多い上に早口なため、話にうまく割り込めない。なんだか厄介そうな気配がして、一秒でも早くこの男から離れたかった。
おまけに、周囲からは奇異と面白がる視線を向けられ、恥ずかしくて居た堪れない。
「まさか、なにかのご病気で?」
「い、いえ……お気遣いなく」
フローラはトレーを胸元に引き寄せて、一歩下がった。すると、男はフローラへと手を伸ばし、一歩近づいた。
「暗い顔をされていましたし、俺で良かったら、話を聞きますよ」
初対面にも関わらず、気持ちの悪い距離の詰められ方をして、名前を覚えてくれていたという喜びは完全に消え去った。
残ったのは不快感と、恐怖だけだ。
「いえ、あの、結構です」
声が震える。
男への恐れが、胸を苦しくさせる。
強く込み上げてくる感情があるのに、目の奥が熱くなるばかりで――涙はやっぱり出なかった。
(もうなにもかもが嫌!!)
積りに積もった感情が爆発しそうになったとき、
「失礼。院内での揉めごとは、ご遠慮くださいますか」
ふたりの間に割って入る冷静な声があった。
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