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白衣の紳士
待ち時間を含め、約四十分の検査を終えて会計を済ませたフローラは、疲労を滲ませて院内のカフェテラスにやってきた。
(なんだか、今回もダメな気がしてきた……。この病院でも頭がおかしいと思われただけ。やっぱり治せないのかな)
少しでも気分を変えようと、コーヒーとクッキーを乗せたトレーを持ち歩き、景色の良い席を探した。
良い場所を見つけたというときだった。
「あのー……」
男性の声で、ためらいがちに後ろから呼びかけられて、驚き混じりに振り向いた。
すると、若い成人男性が目を輝かせて、口の端を持ち上げるように笑った。
「オリビア・ポートさん、ですか?」
それは、フローラの芸名だった。
駆け出しの舞台女優の名前を覚えてくれている嬉しさと、男の不気味な目の輝きに恐怖する自分がいる。
うまく誤魔化せないまま、「あ」とか「う」とか口篭っているうちに、男に肯定と捉えられてしまった。
「やっぱりそうだ! この前公演していた『マイ・スチュワート』で、意地悪な令嬢役で出ていましたよね。一番前の席で観ていたから、顔をよく覚えていたんです。あなたの声が可愛らしくて、すぐに虜になりました! まさかこんなところで会えるなんて」
「ど、どうも……ありがとう……」
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