マグノリア魔法治療院

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マグノリア魔法治療院

 フローラは巻きつけたスカーフの下で、何度目かのため息をついた。視線はほとんど下向きで、チョコレートカラーのブーツの先ばかりを見ていた。 (今度こそ、ちゃんと()てもらえるといいんだけど)  心地よい春風に乗って、はらりと、ピンク色の花びらが足元に落ちてくる。  甘く爽やかな花の香りに目を瞬き、顔をあげれば、枝いっぱいに大きくてふっくらした淡いピンク色の花――マグノリアが咲き乱れていた。 (着いた。ここが、マグノリア魔法治療院)  午後の陽を浴びたマグノリアは美しく、つい立ち止まって見惚(みと)れてしまう。  診察が終わったらゆっくり見ようと心に決め、本来の目的を果たすため歩き出した。  経年劣化が見てとれる白壁の門を抜け、広い敷地を見渡す。レンガ道は二股に分かれており、一方は研究所、一方は診察所へと続いていた。  案内板の示す道を辿って、白壁の建物を目指すなか、人の往来の多さに改めて感心する。  診察所の木製の大扉は人を迎えては送り出し、忙しなく開閉を繰り返していた。  フローラは閉まりかける大扉に飛びついて診察所のなかに入り、少しばかり緊張した面持ちで受付の前に立った。  すると、受付嬢がうんざり顔でフローラを見上げた。 「初診ですか」 「はい」 「ご予約は」  愛想笑いのひとつもない。  事務的で淡々としたやり取りに気後れしつつも、フローラは肩がけの鞄から封筒をふたつ取り出した。 「二週間前にしています。これが予約票と紹介状です」 「お預かりします」  受付嬢は視線を滑らせるように書面の内容を確認し、ドン、ドン、と荒い手つきでハンコを押した。 「総合診療科の受付にお渡しください」  質問は受け付けないとばかりに、冷たい態度で書類を返され、フローラは呆気に取られた。 (疲れているのはわかるけど、この態度はあんまりだわ! ……評判を聞いて受診を決めたけど、コーネリアス先生もこんな態度だったらどうしよう。不安だな)
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