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仕掛けたサプライズ
先輩✕後輩
サプライズとまではいかないけれど、仕事がイベント続きで直帰が多くなっているから、ゆっくりと二人で過ごす時間が取れなくなっていた。
だから今日は、久々に驚かしてやるために、あいつが帰ってくるまでに部屋で得意ってわけでもないオムライスを作ろうと材料を買い込んできたってわけ。
いつものように「今から直帰します」という業務連絡が届いたのを合図に、下準備をしていたチキンライス用の鶏肉と、みじん切りの玉ねぎ、にんじん、ピーマンとコーンをフライパンに油をひいて炒め始める。
油の上で大きく跳ねた具材たちがフライパンの中で踊っているかのようにパチパチと音を立てているのを焦げないように炒めていく。
玉ねぎがきつね色になるまで炒めたところで、器に盛っていた白ごはんを投入して、切るように混ぜ合わせて、塩コショウで味付けをした後、定番であるトマトケチャップをたっぷりと入れて一気にかき混ぜ、チキンライスの完成だ。
少しだけ摘まんで味見をする。
「んっ、うまいじゃん」
二人分のチキンライスを炊飯器に戻して保温する。
あからじめサラダとスープは作っておいたから、あとは帰ってくるタイミングに合わせて卵でふんわりと包み込めばいい。
冷蔵庫から卵を四つ取り出して、ボールに割っていれると、一気に白身の部分がなくなるまでかき混ぜた。
油をフライパン全体にのばしてとき卵を半分入れると、ぐるぐると菜箸で回しながら卵を少しぐちゃっとなるようにかき混ぜて、お茶碗についでおいた一人分のチキンライスを真ん中に乗せると、ゆっくりと返しながらライスを卵で包んでいく。
「よしっ!」
思いの外うまくまけてガッツポーズをすると、何となく恥ずかしくなって誰もいないのにきょろきょろと周りを見回してしまった。
大きめのお皿を取り出して、出来上がったオムライスを乗せる。
「なかなか上出来じゃん」
思っていたよりもきれいで美味しそうに出来たことに嬉しくてつい言葉が出てしまう。
同じようにもう一つオムライスを作ってテーブルの上にセッティングしたところで、タイミングよく玄関が開く音がした。
「ただいま。うわっ、めちゃいい匂いすんじゃん……」
「彰、おかえり」
「えっ、海人さん? なんで……?」
「最近忙しくて会えてなかったから、サプライズでオムライス作ってみた。一緒に食べよ」
「マジか……。俺、めちゃ嬉しいんだけど……」
「ほらっ、手、洗っといで」
リビングへ入ってきた時の、あの驚いてからの嬉しそうな顔が堪んない。
その顔が見たくてサプライズしようと思ったといってもいいくらいだ。
「手、洗ってきたよ」
「よし、じゃあ座って食べよ」
「んっ、でもまずはこっち……」
そう言って、ふわりと腕の中に包み込まれると、ちゅっと唇に触れるだけのキスをされる。
別に待っていたわけではないけれど、ずっとお預けだったことに違いはないわけで……。
素直にそれを受け入れると、「やっぱ海人さんって可愛い」とおでこをくっつけて見つめてくる。
せっかく作ったオムライスが冷めてしまう前に食べたいのに、それを許してはもらえない目の前の恋人に、流されるように俺も腕を首に絡めた。
「ご飯は?」
「あとで食べる」
「冷めてもいいの?」
「久しぶりなんだから、しょーがないじゃん」
「ったく、しょーがねーな」
「ほらっ、あっち行こ」
結局ほかほかのオムライスを食べるはずだったのに、冷えて固くなった卵に包まれたオムライスを食べる羽目になったけれど、俺の心と体は満たされたから良しとしよう。
たまにはサプライズを仕掛けるのも悪くないと思った週末の夜だった。
Fin.
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