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週末の寄り道
陰キャ✕陽キャ
休日はいつも家でのんびりと一人の時間を過ごしていたのに、ここ最近は少し変わり始めていた。
自分がまさか誰かに左右される日が来るなんてこと考えてもみなかったけれど、人間って不思議なもので、好きな人ができると今までのルーティーンを崩せるんだということを知った。
それだけの魅力が彼にあるかどうかは別として、俺の中では間違いなくその魅力があったということなのだろう。
「良さん、パフェ食べに行きましょうよ」
「別にいいけど……」
今までの俺なら「パス」と言って帰宅することを選び、家でゲームをする選択をしていたはずなのに、そうさせないこいつの可愛さ。
本気でビビっている。
二人で仕事帰りのカフェに立ち寄り、向かい合わせに座ると、すぐさまメニューを手に取って、何を食べようかと物色している。
その様子を見ながら、思わずくすりと笑いそうになるのを必死で抑えた。
「良さんは、コーヒーでいい?」
「ああ、いいよ。はるきは何にするの?」
「俺はね、チョコパ」
「だろうね」
チョコ好きのお前なら、メニューを見ていたとしても最終的にはそうなるってわかっていたのに、それでも一生懸命メニューとにらめっこしていたから、つい見つめてしまっていた。
「すみません」
「はい」
「チョコレートパフェ一つと、ストレートティー。あと、コーヒーを一つ、お願いします」
「畏まりました」
店員さんを呼んで注文をさらっと伝えると、メニューをもとの場所に戻して、椅子に深く座り直している。
こういうところ、俺と違って物怖じしなくてはっきりとしていると思う。
可愛いだけじゃなくて、ちゃんと男だなって思える瞬間だ。
「お待たせしました。チョコレートパフェとストレートティーとコーヒーになります」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
運んできてくれた店員さんにお礼を言うと、目の前にあるパフェを待てをさせられているワンちゃんみたいな目で見つめていて、その姿が可愛すぎて笑いそうになる。
でもここで笑ったら拗ねてしまうのがわかっているから、必死で平然を保とうとしていた。
「食べていい?」
「もちろん。食べな」
「うん。いただきます」
パフェを自分の方へ引き寄せると、スプーンを手に持ちアイスとクリームをすくい、口の中へと運んでいる。
「うわっ、おいしっ」
「良かったじゃん」
「ねえ、良さんも食べる?」
「俺はいいよ。はるきが食べな」
「えーっ、一口だけ。ねっ?」
「う、うん……」
「やった! じゃあ……はい。あーん……」
「へっ? あっ……んっ?」
一瞬どう反応すればいいのかわからなくて思考が停止した。
そんな俺に向かって、もう一度スプーンを近づけてくるから、周りを見渡しながらパクッと口へとくわえた。
「どう?」
「まっ、美味しい……」
「でしょ!!」
正直、味なんてわかるわけがない。
今のこの状況に、俺がどれだけ動揺しているのかを、目の前で満足そうにパフェを頬張っているこいつにはわからないだろう。
「良さん、もう一口いる?」
「いやっ、もういいから。はるきが食べて」
「うん、わかった」
さっきの一口で納得してくれたみたいでほっとする。
もう一口となったら、さすがに恥ずかしすぎてどうしようもなくなってしまう。
甘いパフェの後にコーヒーを飲めば、いつもより少し甘く感じるけれど、それも悪くない。
だって、目の前には幸せそうにパフェを食べている恋人がいて、こっちを見て笑っている。
それだけで十分に甘い時間だと感じるから――。
「あー、美味しかった。良さん、この後どうする?」
「どうって?」
「帰る? それとも良さん家で一緒にゲームする?」
「俺はどっちでも……」
「じゃあ、ゲームしよ。でっ、終わったらぎゅってしてよ」
「はっ、おまえ……」
「よし、決まりね」
勝手に話を進めてそんな嬉しそうな顔を見せられたら、もう何も言えるわけがない。
それに俺自身もきっと離してやれないんだろうなって思うから――。
「早く食べろよ」
「んっ、わかった」
ゆっくり食べさせてやりたいという気持ちとは裏腹に、早くこの腕の中に抱きしめたいという感情が込み上げてきて、ぽろりと本音が漏れた。
そんな俺にくすりと笑いながらも、少しだけ早くなったスピードに、何となくくすぐったい気持ちになった。
Fin.
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