6人が本棚に入れています
本棚に追加
「え……?」
わたしは溢れてくる涙を拭いながら、2人の顔を交互に見た。間違いなく少し前まで2人とも泣いていたはずなのに、すでに泣き止んでいる。訳がわからなかった。逆にそんなわたしのことを、2人は訳がわからないと言った表情で見つめていた。
「なんであなたも泣いてるのよ……?」
柊先輩から困惑気味に尋ねられて、恥ずかしくなり、さらに涙が流れてしまう。
「だ、だって、みんな泣いてましたからぁ」
泣きながら答えると、橘先輩が頷いた。
「あやみん先輩、この子有望かもしれないです」
「私も有望な子だとは思ってるわ。けれど、彼女はまだ泣道部の活動について全く知らない訳だから……」
そう言うと、柊先輩はわたしの前に顔をグッと近づけてから、人差し指をわたしの瞳のすぐ下に当てた。柊先輩が長い指でわたしの涙を拭ってくれている。
「今見てくれたように、この部活は泣くことが活動内容なの。こうやって、わたしたちは泣くことを極めているの。いかにうまく涙を流せるか、それを極めるのが泣道。わたしたちはそのために日々鍛錬しているの」
「泣くことを極める部活……」
わたしは困惑してしまう。そんなの聞いたことないし、聞いてもイマイチピンとこない。
「ま、そんなわけで、わたしたちは弓道部じゃなくて、泣道部なわけだから、興味なかったらこのまま帰ってもらったらいいよ」
橘先輩が慣れたようにわたしの腰に手を回して、出入り口までエスコートしようとしてくれる。たしかに、泣道部なんかに入ってしまっても仕方がない。けれど、せっかく掴んだ柊先輩に近づくチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。ましてや、わたしはどうやら素質はあるらしいし。そんな風に悩んでいると、またドアがノックされた。
「他の部員の方ですか?」
「ううん、さっきも言った通り、部員はわたしとあやみん先輩の2人だけ」
わたしたちは首を傾げた。
「じゃあ誰だろう……」
3人でドアの方を見ていると、わたしとほとんど同じくらいの背丈のかなり小柄な少女が立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!