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「すいません、ここって泣く方の泣道部の部室で合ってますよね?」
「あってるけど……」と困惑気味に橘先輩が答えた。
「ねえ、あなた泣道を知っているの?」
柊先輩が尋ねると、少女は大きく頷いた。
「わたくしは1年D組の萌桃と申します。泣道部に入部希望です」
静かなトーンで言い切ると、萌桃は深々と頭を下げた。苗字は名乗らずに下の名前だけを伝えたということを除いたら、かなり丁寧な自己紹介をしており、上品なイメージを受けた。ふわふわとした髪型と小柄な身長のせいで、お人形さんのようにも見えた。なんだか泣道部は可愛らしい子ばかりで、引け目を感じてしまう。
「泣道部って知った上での入部希望者なのね?」
柊先輩が一歩ずつ萌桃の方に歩み寄って行った。萌桃は大きく頷く。
「もちろんですよ」
「どうして泣道部に入ろうと思ったのかしら?」
「柊綾美先輩を探していたからですよ」
萌桃は純粋な瞳で柊先輩の方を見ていた。
「私?」
「そうです。柊先輩です! ぜひお近づきになりたかったので」
わたしと同じ動機だった。柊先輩争奪戦のライバルが増えてしまうではないか。これはまずい。きっとここでわたしが入部を取りやめて帰ってしまったら、このまま萌桃と柊先輩が親しくなってしまう。
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