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「いいですよ。別に気にしないでください」
萌桃は困ったように笑った。これ以上この話を続けるのは気まずくなりそうだから、話を変えるために、今度はわたしが気になっていたことを萌桃に尋ねてみた。
「そ、そういえば萌桃が苗字名乗らなかったのってなんでなの?」
「だって、それを言ってしまうと、姉と血縁関係って勘付かれると思いましたので。泣道なんて、そもそも知っている人が少ないのに同じ学校に同じ苗字の泣道のことを知っている人がいたら、姉妹の可能性を疑われてもまったくおかしくないと思いますから」
話が戻ってしまった。どうやら話題選びに失敗してしまったらしいけれど、今更元に戻すわけにはいかない。わたしは続けた。
「バレたくないの?」
「バレたらお姉様のこといろいろ聞かれて面倒くさそうですし。わたくしはお姉様のことは大好きですし、天才的な泣道の才能は尊敬すべき部分だと思っています。ただ、柊綾美とはお姉様の話はしたくありません」
「なるほど……」
「今日だって、柊綾美が生意気にもお姉様のことを勧誘しようとしていたの、気分が悪かったですし。わたくし頑張って冷静な表情を装いましたけれど、危うく睨みつけそうになってしまいました」
萌桃が大きくため息をついた。萌桃はあやみん先輩に悪いイメージを持ってそうだし、愛莉華は萌桃に対して悪いイメージを持ってそう。4人しかいない部内にそんなにもギスギスした感情が発生していたら不安になってしまう。やっぱり泣道部から逃げてしまおうかとも思ったけれど、その感情は否定する。せっかく綾美先輩とお近づきになるチャンスをみすみす手放すわけにはいかない。
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