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数週間後。
アマリリスは、名のある公爵家の敷地に新築された温室のお披露目パーティに兄と共に出席していた。
パーティと言っても、人が集まって何かするというよりは、出席者が自由に温室の中を見学できるような気楽なものだった。
広い温室の中には珍しい植物や花も植えられていて、アマリリスは知り合いの貴族と会話中の兄を置いて、夢中でそれを見て回っていた。
「あら、アマリリス様。ごきげんよう」
声をかけられて振り返ると、立っていたのはフォンティーナだった。
「フォンティーナ様、ごきげんよう」
とりあえず笑顔をつくって挨拶を返すが、この上なく気まずい。
(どうして声をかけてきたのかしら…)
目を合わせているのも気まずく、視線を少し下にずらした時、ふと、フォンティーナのつけている首飾りが目に入った。
「素敵でしょ?殿下にいただいたんですよ」
「え?」
フォンティーナの胸元のあいたドレス、そこには大ぶりのサファイアがついた豪華な首飾りが光っていた。
「殿下ったら別れた相手に自分の瞳の色のアクセサリーを贈るなんて、思わせ振りな人ですわよね」
「………」
「私に未練があるのかもしれませんわ。困りましたわね」
笑みを浮かべるフォンティーナは全然困っているようには見えない。
フォンティーナと話した後、アマリリスはまた温室の植物を見てまわったが、全然集中できなかった。
フォンティーナの胸元で光っていた美しいサファイア。ルシアンの瞳によく似ていた。
数週間前、アマリリスが城に訪れた日、ルシアンとフォンティーナは2人で会っていたようだった。もしかしてあの時に首飾りをフォンティーナに贈ったのかもしれない。
普通に考えて別れた相手にアクセサリー、それも自分の色のものを贈るとは考えられない。
(フォンティーナ様と別れていなかったってこと?)
透明な水に黒い絵の具がポタリ、ポタリと落ちるようにアマリリスの心に疑念が浮かんでは消える。
そんなこと、あり得ない……でも……
もしかして……
もしかしてルシアンは、アマリリスを妻にして、王子の妃としての仕事をさせた上で、フォンティーナを愛人にでもするつもりだろうか。
裕福な貴族の中にはそういう関係を結ぶものもいると聞く。
いや、でも、ルシアンに限ってそんなことするはずない。アマリリスの知るルシアンはそんなことできる人ではなかったはずだ。
でもアマリリスの知らない顔があるのだとしたら?
自分の知らないところで真実の愛がまだ続いているのだとしたら…
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