本編・いち

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本編・いち

「すまないアマリリス、君との婚約は破棄させてもらう」 「…どうしてですか?」  珍しく王子から話があると呼び出されて来てみればこんな話だった。  城の応接間にて正面に座るこの国の第二王子で、アマリリスの婚約者でもあるルシアン。  金髪の整った顔立ちの王子は温度のない碧い瞳でアマリリスを見ている。  その隣には王子にしなだれかかるように座る男爵令嬢フォンティーナの姿がある。  少し前から王子と仲が良いとの噂がアマリリスの耳にも届いていた。  桃色の髪に、緑の濡れた大きな瞳、小柄で可愛らしく男性なら庇護欲をそそられる。  髪も瞳も薄茶色で、地味な印象のアマリリスとはまるで正反対のタイプだった。 「『真実の愛』を見つけてしまったんだ。フォンティーナには素の自分が出せる。これからは彼女と共に生きていきたいんだ」 「殿下~」  ルシアンとフォンティーナはお互いを見つめあい完全に2人の世界に入り込んでいた。 「そう、ですか……承知しました」  この様子では、こちらから何を言ってもこの話が覆ることはなさそうだ。  この国の第二王子ルシアンと侯爵令嬢アマリリスの婚約は幼い頃から取り決められたものだった。  幼い頃の2人はそれなりに仲が良かった記憶があるが、成長するにつれなぜかお互いの距離は広がっていってしまった。  最近では月に2度ある王子とのお茶の時間も会話が少なく気詰まりなものになっていた。  王子にそれほど未練はないが、少々困ったことになった。  アマリリスは王子より3つ年上だ。同年代の令嬢の中には既に結婚している者も多い。この年齢で新しい婚約者を探すのは難しいだろう。父親の困惑した顔が浮かんだ。  アマリリスが応接間を後にすると、フォンティーナがクスリと笑った。 「アマリリス様、あっさりしていましたねえ」 「そういう性格なんだよ。僕とは最初から合わなかったんだ」  ルシアンは目を伏せ、そう答えた。
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