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番外編・365日の花束(後編)
「は、離してください」
「アマリリス嬢―――」
「なにをしている」
低く威圧的な声が廊下に響いた。
振り返ると見たこともないくらい冷たい顔をしたルシアンが立っていた。
「い、いえ、これは…」
第二王子の姿に驚いたダリオがアマリリスから手を離す。
2人に近づいたルシアンはアマリリスの肩を抱き、グイッと自分の方へ引き寄せた。
「アマリリス待たせたな」
「「!!」」
「君は、確か伯爵夫妻の親戚だったかな。僕の大切な人、アマリリスに今なにをしてたんだい?」
「い、いえ、ルシアン殿下!道案内を少し…し、失礼いたします」
一瞬にして酔いがさめたダリオは青い顔をして去っていった。
「で、殿下、ありがとうございます。でも、どうしてこちらに」
「君を見張っ…ん”んん…いや、僕も招待されていたんだ。出席できるかは当日までわからなかったが」
「そ、そうでしたか」
「……アマリリス、大丈夫か?」
先ほどの恐怖を引きずって、アマリリスの体はまだ小刻みに震えていた。
ルシアンは自分の上着を脱いで、さっとアマリリスの肩にかけた。
「あっ、ごめんなさい」
「なにも謝ることはない。アマリリス、もう大丈夫だから」
ルシアンがそっと優しくアマリリスの頭を撫でた。
かけられた上着からルシアンの香りがほのかにする。アマリリスは緊張が解け、やっと落ち着くことができた。
「僕の馬車で屋敷まで送るよ」
「そこまでしてもらう訳には」
「駄目だよ。心配なんだ。また変な男が言い寄ってきたら大変だ」
「そんな、私に言い寄る男性などほぼいませんわ」
ルシアン本人には言えないが、第二王子に婚約破棄された令嬢など、問題のありすぎで、男性は見向きもしないだろう。
「………アマリリス、わかっていないな。君は綺麗で魅力的な女性だ」
ルシアンがアマリリスの頬にそっと指で触れる。
やっと落ち着いてきたというのに、アマリリスの鼓動はまた別の意味で速くなっていく。
結局、ルシアンの馬車で送ってもらうことになったアマリリス。
(なんだか距離が近いような)
ルシアンはアマリリスの隣に寄り添うように座っている。婚約者だったときは向かい合って座ったり、隣に座ってももっと距離があいていた。
ダリオに腕を掴まれ近づかれた時は嫌悪感でいっぱいだったのに、ルシアンに近づかれても全然嫌な気持ちにはならない。嫌ではないが、ドキドキして落ち着かなかった。
ちらりとルシアンの横顔を見る。
綺麗な金色の髪に、長い睫毛。宝石のようなブルーの瞳。ずっと近くにいて、なんでもわかっている気になっていたけど、近くにいすぎて気づいてなかっただけだ。
隣に座るルシアンはもう頼りになる大人の男性なんだと。
ふと、ルシアンがアマリリスの方を見た。ブルーの瞳と目が合い、優しく微笑まれる。
脈拍はさらに速くなり、顔がのぼせそうに熱かった。
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