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番外編・アマリリス、幼児化する
「ルシアン殿下の寛大なお心に感謝の言葉しかありません」
故意ではなかったとはいえ王子に呪いをかけてしまった隣国の魔術師は罪を問われ牢屋に入れられていた。ルシアンとアマリリスが再び婚約してしばらく経った頃ようやく釈放が認められた。
ルシアンはひれ伏して感謝を述べる魔術師を見やる。
今となっては魔術師が幼児化の呪いをかけたお陰でアマリリスとやり直すことができた。こちらが感謝してもいいくらいだった。礼を言うつもりはないが。
「ひとつ頼みがある」
「なんなりと」
「彼女に余興でやる予定だった魔法を見せてやってくれないか」
「もちろんです」
ルシアンの隣にいたのはもちろんアマリリスだ。他に王妃とルシアンの兄のブライアンも同席していた。
魔術師は広間を薄暗くするようお願いすると、呪文を唱えた。するとのヒュルルルと音をたてながら手から小ぶりの光の玉が空中に飛び出していった。
パンッ
「きゃっ」
破裂音に驚いたアマリリスがルシアンの腕を無意識に掴んだ。おそろしく可愛らしい。
破裂音と共に空中に現れたのは光の花だった。魔術師の手から次々に飛び出しては空中で弾け、色とりどりの花を咲かせる。
初めは音にびっくりしていたアマリリスだが、すぐにその美しさに目を奪われた。
「わあ、なんて綺麗なの。ルー、今の見た?」
「あ、ああ」
正直に言うとルシアンはあまり見ていなかった。喜ぶアマリリスの横顔に見惚れていたのだ。光の花に夢中になり敬語がとれているのも実に可愛らしい。ルシアンは口元が緩みそうになるを必死で堪える。
「素晴らしいですね」
魔法の披露が終わった後、感動したアマリリスが魔術師に話しかける。
「ありがとうございます」
この国には魔術師はいない。物珍しさもあってアマリリスはついついいろいろ質問してしまう。
「―――なるほど。魔法も呪いも同じような力を使うんですか?」
「リリィ、もうそのぐらいで…」
「あっすみません、質問ばかりして」
ルシアンに言われてはっとしたアマリリスは恥ずかしそうに謝る。
ルシアンとしては魔術師といえど男性なので2人が長々と話すのは少し面白くなかった。
「いえいえ、構いませんよ。そうですね、呪いも魔力を使います。こうやって…」
魔術師は身振り手振りも加えて丁寧に説明してくれる。
魔術師の手のひらに光が灯った瞬間、タイミング悪く彼のローブの裾に王妃の愛猫がじゃれついた。
猫の爪がローブに引っかかり魔術師が体勢を崩してしまう。手もとの光がアマリリスに降りかかる。
「きゃっ」
「リリィ!!」
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