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中学時代
スマホのアラームの音で目が覚める。瞼を開けた瞬間から薄っすらと光が差し込んできて、もう朝だということを認識した。
アラーム音は鳴り続ける。うるさいな、と思いながらタップをしてもう一度眠りについた。それが何度続いたのかわからない。
「ちょっと、百々花! 起きなさい!」
部屋に入ってきたお母さんは怒鳴り声を上げて私を起こしにくる。いつもの光景だ。
「うー」と声を出した私は、朧げに母親の顔を見ながら「お腹痛い」と答えた。
これは半分本当で、半分嘘。眠気と戦いながら口から出まかせを言ったことは事実だ。でも、半分は本当に痛みを感じていて、胃の方がなんだかキリキリと響くように痛んだ。
「え、大丈夫? 学校行ける?」
「……わかんない」
「無理そうなら、休んでもいいけど」
「うーん」
「いずみちゃんもうすぐ来てくれると思うけど、先行ってもらおうか?」
「え」と声が出た。どうしよう、眠いのは眠い。このまま眠りの世界に浸り続けることがどれほど幸せなことかはわかっている。でも、それが正解じゃないということも知ってる。
ピンポーン、と家のチャイムが鳴る。時計を見ると、もう八時前だった。
「あ、ほら、いずみちゃんじゃない?」
パタパタとスリッパを鳴らしながら階段を降りて行くお母さん。迷いの気持ちを振り払うように、私は起き上がって急いで階段を降りた。お母さんがちょうど玄関のドアを開けたタイミングで、制服を着たいずみと目が合った。
「あ、おはよう」
彼女はいつものように可憐で、清楚な女の子。
「ごめん、いずみ、五分待って」
「え、大丈夫なの? 百々花、あんたさっきお腹痛いって言ってなかった?」
「大丈夫大丈夫」
「もうほんとに。いずみちゃん、ごめんなさいね」という声が辛うじて背後から聞こえた。それぐらい私は慌てていた。超特急で顔を洗い、歯を磨き、制服に着替える。ここまで三分。髪の毛は寝癖が付いているから、ブラシだけは鞄に入れて。
朝ごはんを食べる時間はない。オレンジジュースを一気に流し込み、きっちり五分後には玄関の扉を開けていた。
「もっと余裕持って動けばいいのに」
「はいはい、いってきまーす」
「いってらっしゃい」
門扉の前にはいずみが待っていてくれて、私は両手を合わせて謝った。
「いいよ全然待ってないし」
いずみは優しい。彼女に怒られた記憶なんてない、それぐらいにいずみはいつも優しかった。
私よりも少し背が高くて、ショートヘアが似合う女の子。どちらかといえば陰の薄い見た目だけれど、とても優しくていい子だ。彼女の姿を見る度に守ってあげたくなる。
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