記憶とこれから

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祈織の言葉や行動などまったくもって分かりやすいではないか。恋愛ごとに疎い安達でも分かる。 祈織が一眞の為を思ってそうしたことは明白だ。本当は自分を選んで欲しいと言えずにいることも。 だがそれを安達が一眞に伝えるのは違う気がした。 そして本当は一眞だって気付いているはずなのだ。祈織に惹かれていることを。ただ、瑞希を好きであった自分もまた本当だから。ふたりの過ごした歳月も嘘でないから。 「きみの問いに模範解答はないです。ですが……答えはきみの中にもう既にあるはずです」 頭で考えるのではなく、心が求めているものを。 「祈織くんにはほぼ君に決まったと言いましたけど、本当は来週が最終審査です」 「え?」 安達が突然話を変えたことに一眞はきょとんと見つめる。安達は残り少なくなったコーヒーをソーサーへと戻した。 「その資料のドラマですが、主役は君ともう一人、別の事務所の候補がいます。どちらが決まってもおかしくない、そんな状況です」 「っ……」 祈織には覚悟を決めてもらうために言わなかったということか。 「君は君に飽きていたという祈織くんの言葉が本当だと思いますか?」 あの笑顔も言葉もぬくもりも。全部演技で嘘だと思えない。一眞は小さく首を横に振った。 「祈織さんの最後の演技、すごく下手だった……なんて言えたらよかったんですけどね」 あははと笑って汗をかいたアイスティーのグラスを掴む。触れた側からまるで涙のように水滴が落ちて一眞はそれを指先で拭った。 「あんな時でも祈織さんの演技は上手くて、本当に言われているかのように傷つきました。でも、やっぱり俺はあれが本当だとは思えない、ううん、思いたくない。俺はちゃんと祈織さんの本当が知りたい」 「だったら、君のこれからを考えて悪役になった祈織くんのために、君のすることは何かわかりますよね」 「っ……」 足枷にならないよう、わざと突き放しただろうと考えれば胸が痛い。 きっと祈織は一眞の背を押してくれた。 この役はなにがあっても、勝ち取らなくてはならない。この役を手に入れて、そうしてあらためて祈織と向き合うのだ。 一眞は安達を見つめて力強く頷いた。
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