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「倫太朗、俺もそっちに行くよ、どこの病院?」
そわそわと落ち着かずに祈織は元来た道を駅へと戻るために歩き出す。まだギリギリ電車はあるはずだ。
そうして倫太朗が教えてくれた病院を頭に叩き込むと電話を切った。地図アプリで病院を検索する。それほど時間がかからず行けるところだったことに安堵して祈織は駆けだした。
命に別状はないと言っても心配な事は心配だった。
急ぎ駅に戻って祈織は電車に乗るとメッセージアプリを開く。
まず最初に連絡をするのは事務所の人間だ。そこに連絡を入れればおのずと一眞の実家には連絡がつく。だが、この時間では事務所は既に誰もいないだろう。
祈織は安達に急ぎ案件のため連絡をくれとメッセージを送った。
安達のことだからこの時間でもきっと連絡はつくはずだ。誰かタレントに付き添って現場にいたりすると電話をかけるのも申し訳ない。そう思ってのことだった。
それから社長か、と連絡先をスクロールしながらその指がぴたりと止まる。
桐谷瑞希。
恋人なのだ、きっと瑞希も心配する。
祈織はそう考えて簡潔に一眞が入院したことと命に別状はなく、詳しくわかったらまた連絡するとメッセージを送った。
そうして電車を降りると地下鉄の階段を駆け上がり急ぎ足で倫太朗から聞いた病院への坂を上っていく。
(早く……)
気ばかりが急いて足がもつれそうになる。
久しく本格的な運動などしていない祈織は急な坂に息を乱した。聳え立つ大学病院を見上げながら、祈織は一眞を思いつつ重い足を必死で動かした。
「倫太朗!」
「祈織さん!」
スタッフステーション向かいのソファセットのところに座る倫太朗を見つけた。祈織の姿を見てホッとしたように倫太朗が立ち上がる。
「すみません、来てもらって」
倫太朗は申し訳なさそうな顔をして頭を下げる。
「いいんだよ、俺も心配だったし。それより一眞は?」
スタッフステーションの横、ICUの入口を見つめる。
「本当に一眞かどうか確認してくれって俺がさっき中に入った時には頭と足に包帯巻かれて寝てました。よくドラマとかで見る吸入器とかもないし、本当に眠ってるって感じで」
「そっか」
それならば本当に医者の見解通りじきに目を覚ますのだろう。ひとまずはホッとする。
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