記憶喪失

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「祈織さん、連絡とかしてもらってありがとうございます」 「いや、事務所にしてもきっと誰もいないと思って安達さんと社長にしただけだよ。それもまだ連絡返ってこないし……」 祈織はそう言ってスマートフォンを開く。 「瑞希さんには……」 「そっちも一応メッセージ入れといたけど……撮影中とかだと見れないだろうしね」 メッセージアプリを見れば既読にはなっていない。 「一眞、頭は打っているけど検査では異常もないそうです。突っ込んでくる車を咄嗟に避けたらしくて並の反射神経じゃないって救急隊員が言ってましたよ。さすが一眞ってとこですよね。咄嗟だったから避けた時に歩道に停まっていたバイクに当たって頭を打って。他の目立った怪我は足首のひどい捻挫と肩の打撲だそうです」 少しばかり誇らしげに倫太朗が言う。 その後続いた説明ではどうやら一眞に過失はないらしく、脇見運転の乗用車が歩道に乗り上げてきたらしい。それをうまく避けたなどさすがだ。 と、そこで安達からタイミングよく電話が入った。祈織は倫太朗から聞いたことをそのまま伝える。 安達はすぐに一眞の実家へと連絡をし、両親も明日一番にこちらへと駆けつけてくれるらしい。 ほっと息を吐いて電話を切ったところでICUのドアが開いて看護師が現れた。 「小山内一眞さんのご家族様はいらっしゃいますか?」 祈織と倫太朗は立ち上がる。 「家族は広島なのでまだ到着していません。僕たちは小山内がこちらへと運ばれた時に連絡を貰った同僚で……」 祈織の言葉に看護師は笑顔で頷く。 「小山内さん、意識を取り戻されました。安定されていますのでお話しできますがいかがなさいますか?」 「っ! 案内してください」 「はい。……念のため気が付くまでICUの個室にいていただいただけなので、すぐに一般病棟に入れますよ」 「よかった!」 後ろをついてくる倫太朗が心底ほっとしたような声を上げる。
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