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ICUはしんと静まり返っており機械の音が響いていた。その奥の個室に一眞はいるらしかった。
カーテンを引かれたベッドはどこも塞がっていて、一眞のような患者は早めに一般病棟に移したいのだということがわかる。
個室は一番奥で、看護師がたまたまそこしかベッドが開いていなかったのだと言いながらガラス張りのドアを開けた。
そのベッドでぼんやりと天井を見上げる一眞がいた。
「小山内さん、同僚の方が来てくれましたよ」
「一眞」
そっと声をかければ長い睫毛がふるりと揺れて黒目がちな瞳がゆっくりと祈織を見つめる。
「一眞、よかった、無事で」
祈織は一眞の名をもう一度呼んでその手に触れた。ほんのり冷たいそれがぴくりと反応する。
「もう! 驚かせるなよ、心配しただろ!」
一歩出ればICUのため声を潜めて叱る倫太朗にぼんやりとした瞳に焦点が戻る。
眩しいのか、数度瞬いた瞳がゆっくりと声の主を探るようにあたりを見回した。倫太朗を見つめ祈織に視線が戻ってくる。しっかりと視線が合って、祈織はほっと笑みを浮かべた。
頭や足に包帯が巻かれ痛々しいものの、無事に目を開けてくれたことに感謝だ。
漸く安心したらしい倫太朗が笑みを浮かべて一眞を覗き込む。
「痛いとことか辛いところはないか?」
「……」
倫太朗の言葉に一眞は無言でその顔をぼんやりと見つめた。
「一眞? 大丈夫?」
そんな一眞の様子に祈織が少し訝しげに呼びかけるもまた無言だ。
「とにかく意識は戻ったんだ、看護師さんありがとうございました」
「いえいえ、担当医がこちらに向かっていますから、もう一度診ていただいてから一般病棟へ移動しましょう。所持品についてですが……」
見守っていた看護師と倫太朗が背後でそんな会話をしている時だった。
祈織が握っていた手を一眞が振り払う。
「……誰?」
「え?」
一眞の硬い声に祈織は目を見開き、倫太朗はぽかんと振り返った。
「……あんたたち、誰?」
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