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ぼそぼそとした話し声が聞こえた気がして祈織の意識が浮上する。
眩しい光は上の窓からで、いつの間にか一眞の病室にあるソファで眠っていたのだと気づいた。
「ああほら、お前が騒ぐから起きただろ」
そんな声がしてパチリと目を開くと、ベッドに起き上がっている一眞と祈織を覗き込む倫太朗の姿があった。
「すみません、騒がしくしちゃいましたか?」
申し訳なさそうな倫太朗に祈織は起き上がる。
「大丈夫だよ」
「結局帰らなかったんですか?」
「ああ、うん、今日は夜からしかバイトもないし、少し油断したら寝ちゃった」
いつの間にか毛布がかけられていたらしく暖かかったのもある。
見廻りの看護師がかけてくれたのだろうかと思いながらそれを畳んでいれば一眞の視線に気づいた。いつも祈織と目が合えば微笑んでくれる一眞だから無表情で違和感しかない。
「……お前さ、」
「ちょ、なんだよ、お前って! 祈織さんのことお前なんて呼んだら記憶が戻った時死にたくなるぞ!?」
「は?」
「ちょっと、倫太朗、なに言い出すんだよ」
倫太朗の言葉にぎょっとして割って入る。
「だってそうじゃないですか! 祈織さん大好き男が『お前』なんて……思い出したら自害ものですよ」
「大袈裟な……」
一瞬呆気に取られてから噴き出す。
そんな祈織たちの様子に一眞は伺うように祈織を見た。
「なに、年下じゃない…ないんですか? 童顔だから年下かと思ってた」
あけすけな言い方にも慣れないがもしかしたらこれが素なのかもしれない。だが、敬語に言い直す一眞にやはり礼儀正しい一眞だと思わず微笑む。倫太朗は憤慨したように正した。
「祈織さんは俺たちのふたつ上だ!」
「マジか。……それはすみませんでした」
素直に謝るところも変わらない。知らない人になってしまったような気もしたが、やはり根本的なところは一眞で少しホッとした。やはり他人行儀にされて寂しかったのかもしれない。
「ところで俺のスマホとかない…ですか? 中身見れば思い出しそうだけど……」
一眞は祈織に向けて敬語を使うことに違和感があるらしく片言になる。それが可愛らしくて祈織はふふと笑った。
「敬語じゃなくてもいいよ。一眞のスマホはあることにはあるんだけど、事故の時に割れたらしくて電源も入らないんだ」
祈織は預かっていた一眞の荷物を手渡す。割れた画面に倫太朗が眉を寄せる。
「ショップに出せば直りますかね」
「そうだね……ダメでもデータは取り出せるかもしれないよね、出しておこうか?」
「うわ、ほんとだ……ダメかもしれないけど一応お願いしてもいいですか?」
「もちろん」
祈織はそう言って一眞から画面の割れたスマートフォンを受け取った。
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