偽りの恋人

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偽りの恋人

そうしてバイトだという倫太朗が帰り、一眞自身のことや仕事のことなどを話して聞かせていれば、昼頃に事務所のスタッフと共に一眞の両親がやってきた。 スタッフから道中に話は聞いていたらしく、しきりに恐縮している様子だった。 入院手続きに向かう母親とスタッフがいなくなり父親と一眞、祈織の三人になる。 「宮祈織さんですよね、一眞がいつもお世話になっております」 一眞の父親は祈織に丁寧に頭を下げた。祈織は慌てる。 「いえ、こちらこそお世話になっております」 「うちは私どももこいつの姉も含め宮さんのファンなんですよ。こんな時ですがお会いできて嬉しいです」 「今はほとんど演技もできていないので恐縮です」 祈織はそう言って嬉しそうに握手を求める父親の手を握る。きっと一眞が祈織のファンになってくれたために家族全員が祈織を見る機会があったのだろう。 本当にありがたいと微笑む。 「なに、この人そんなにすごい人なの?」 一眞の言葉に祈織は苦笑いを浮かべた。 「いや、今はほんと鳴かず飛ばすで……」 「このバカは宮さんにあこがれて芸能界入ってお世話になっとったって言うのになんじゃその態度は! 宮さん、本当に申し訳ないことです」 スパンといい音を立てて後頭部を叩く一眞の父親に祈織は呆気に取られた。 「ってぇな! 俺、頭打ってんだけど頭殴るとかおかしいんじゃねぇの!?」 「うるさい! このバカ息子が何をやりよるんだ」 「ちょ、ちょっと、落ち着いて、ふたりとも」 我に返った祈織は慌ててふたりの仲裁に入る。 一眞の父親にもびっくりしたが、普段の一眞からは想像もできない姿に驚いた。祈織のことを知らないのだから中学生くらいの記憶なのだろうが、昔はこんなだったのかと興味深い。この一日で驚いてばかりだ。 「お父さん、落ち着いてください。一眞くんの記憶喪失は一過性のものだと聞いています。それに、僕だけが忘れられたわけではないですし、こればっかりは仕方がないことですから」 「ほら見ろ、この人もこう言ってんじゃねーか」 「お前が言いんさんな」 「小山内さんのご家族の方、先生がご説明をとおっしゃってますのでこちらによろしいでしょうか?」 父親の手がまた出されそうになったところで看護師が顔を覗かせた。父親は手を引っ込めて看護師に頭を下げる。 「ありがとうございます、伺います。……わしゃ先生に会いに行ってくるけぇ大人しゅうしてろ。宮さん、申し訳ありませんがよろしくお願いします」 「はい、お任せください」 一眞の父親はそう言って病室を出て行った。
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