ふたりだけの生活

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ふたりだけの生活

遠くで何か重いものを引くような音がした。 祈織の意識は深い眠りから揺り動かされるように浮上していく。そうしてうっすらと開いた目先、いつもとは違う天井にハッとして飛び起きた。 「一眞っ……」 昨日自分がしでかしたことを一気に思い出す。慌てて布団から抜け出ると隣の部屋とを隔てる襖を開いた。 「一眞っ!」 布団は既に畳まれ、部屋はもぬけの空だ。祈織が焦って一歩踏み出した時だった。 「祈織さん? ごめん、起こしちゃいましたか?」 南側の障子の向こうからそんな声が聞こえ、祈織は慌てて障子を開いた。一眞は柔らかな笑みを浮かべて祈織を振り返った。 「……一眞」 「おはよう、祈織さん。ごめん、雨戸開けてたんだけどうるさかったですよね」 明るい色の髪が朝日を受けてキラキラと輝く。 半分ほど開けられた雨戸は古いせいか建てつけが悪く、先ほど夢心地で聞いたのはこの音だったらしい。 「……ううん、大丈夫、おはよう」 あからさまにほっとしたような祈織の顔に一眞が首を傾げ、それから笑った。 「祈織さん、すげー寝ぐせなんだけど」 くすくすと笑って一眞は祈織の髪を真似するように自分の髪を持ち上げる。祈織は慌てて髪を撫で付けた。 「えっ!?」 「いつもはサラサラなのに珍しいですね」 一眞は祈織の髪を手に取る。 それにどきりとして祈織は赤くなった。 「いつもと違うシャンプーだったからかな」 もしくは枕のせいか。夢見が悪かった気がするから寝返りを何度も打ったのかも知れない。 「祈織さんの髪、綺麗ですね。色素薄くて儚げでさ。染めなくても綺麗な色だし」 全体的に色素が薄くスリムな祈織は儚げとかか弱いイメージを持たれることか多いが、本人はいたって健康で風邪などもあまりひいたことがない。 「俺は一眞みたいに全体的にしっかりした男らしい感じが憧れだけどね」 さらりとした明るい茶色の髪は寝ぐせなどつかないのかいつものように形いい頭に沿うようにおりている。 「無いものねだりですね」 一眞は笑うとまた雨戸に向き合った。 「俺も手伝うよ」 自分の飛び跳ねている髪を手で撫でつけながらTシャツ短パン姿のまま、一眞と反対側の雨戸を開けた。 昨日も思ったが、確かにこれは開けづらい。あとで滑りやすくなるようにどうにかしないといけないようだ。 頭の中の買い物リストに叩きこんで祈織はぶるりと震えた。 さすがにこの格好では朝の寒さはしのげない。パジャマも購入せねばと思っていれば一眞の視線の先に気づいた。
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