ふたりだけの生活

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開け放たれた掃き出し窓の向こう、朝日を浴びてきらめく海を見つめている。 どこかなにかを思い出していそうなまなざしにどきりと鼓動が飛び上がる。 「一眞!」 自分を見てほしくて名を呼べば、憧憬を浮かべた瞳は瞬いて柔らかく祈織を見つめた。 「どうかしましたか?」 「あ、いや、……ずっと開けておくと寒いよ。体が冷えちゃうから」 そう言いながら一眞が昨日買った服にしっかり身を包んでいる事に気付いた。寒いのは自分ばかりだったようだ。 だが、一眞は慌てて窓を閉めた。 「あ、ごめんなさい、寒いですよね。祈織さんも早く着替えた方がいいですよ。……それにしてもすごい寝ぐせ。そういう隙のある祈織さんも可愛い。後で直してあげますよ」 ふふと笑って一眞の指先が祈織の髪を撫でる。思いのほか祈織の髪の感触が気に入ったらしい。 「……うん、頼むね」 いつもは寝癖もあまりつかないが、今日ばかりは四方に跳ねた髪を一眞が直してくれる。その指で柔らかに祈織に触れるのだろう。それを想像して祈織の心臓はとくとくとはやった。 それから急いで昨日一眞が選んでくれた服を着ると朝食の準備に取り掛かる。 本当であればいつものように和食が食べたいところだが今から米を炊いたのでは遅くなってしまうと、昨日買ってきたロールパンをトースターに放り込んだ。そして卵やベーコンを取り出す。 「祈織さん、俺も手伝いますよ」 痛めた足を引きずりながら一眞が台所へと入ってきた。 「大丈夫。足を痛めているんだから休んでいていいよ」 祈織は慌ててダイニングの椅子を引き出す。そんな祈織の言葉に少々不満げな顔をしつつも一眞は大人しく椅子に腰かけた。そのまま祈織の後ろ姿をじっと見つめている。 「……一眞」 「ん?」 「見られていると気が散るんだけど……」 「えー? だって祈織さんがご飯作ってくれるの新婚みたいで嬉しいし、傍にいたいんですもん」 ストレートにそう言われて思わず頬が赤くなる。それに気付いたのか気付かなかったのか、一眞は目を細めて微笑んだ。 「祈織さん、そのセーター似合ってるよ」 くるみボタンのついた薄手の生成りのセーターは昨日一眞が選んでくれたものだ。 「……一眞が俺に似合うものを選んでくれたからだろ?」 「なんか嬉しいですよね。好きな人が自分の選んだもの着てくれるって」 くすぐったい一眞の言葉に舞い上がりながら祈織は平静を装って言った。 「じゃあ今度は俺が選んだ服も着てくれる?」 「もちろん!」 にこにこと一眞が頷く。ぱたぱたとしっぽを振っているように見えるのは気のせいだ。 「じゃあまた買い物に行こう」 「はい! 買い物デートですね」 まるで祈織の胸の内を表すかのように鍋の中でコトコトと卵が躍る。 たったそれだけのことでこれだけ気分が上がるなんて信じられなかった。 中学の頃から芸能人としてデビューしてしまった祈織は恋愛ごとにはとんと縁がなく、本の中でしか味わえなかったベクトルがお互いに向かう恋愛の醍醐味を初めて知って胸がいっぱいになる。 ふわふわと上がる湯気に温められながら祈織はレタスを一眞に差し出した。 「やっぱり手伝ってもらおうかな」 一緒に何かをするものまた嬉しい。座ったままできるようにダイニングテーブルにボ ウルを置けば、一眞は嬉しそうに笑って頷いた。
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