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「……さっきの自分の足りないところ勉強したいって話だけど、瑞希ってそういうのいやだったら言い出しもしないだろ? だから本当にそうしたかったんだろうなって思った」
「……俺はお前のそういうとこが好きだったんだろうな」
「え……?」
「こっちの話。いいから見よーぜ」
囁くような瑞希の言葉がよく聞こえずに見つめれば、瑞希はあしらうように手を振ってテレビに視線を向けた。一眞は口を噤んで再生ボタンを押す。
「……まだ本編繋げただけでオープニングもなにもねぇから味気ないけどな」
瑞希が言うのと同時、パッとドラマが始まった。
ビールとポテトチップスをつまみながら進んでいくドラマに引き込まれる。まだ最終的な編集は済んでいないらしいがほとんど繋がっていた。後は余分だと思われる箇所をカットし時間を合わせるのだろう。
水上麗子扮する友樹の母は結局死んでしまうが、その後で友樹が先生役の文音にちゃんと話せたことの礼を言うシーンでは涙が溢れた。
「相変わらず涙脆い」
「うるさい」
ふっと笑ってからかうように言う瑞希に鼻水を啜りながら文句を言い、ティッシュを取ると盛大に鼻を噛んでテレビを消した。
「最初祈織が出ている回は三話目だった。だけど急遽二話目になったんだ。この意味が分かるか?」
「え?」
DVDを取り出す一眞に背後から瑞希が静かに声をかけた。一眞はきょとんと瑞希を振り返る。
「ドラマの視聴率に大事な回は初回と二話目だって言われてたりするらしい。初回見て次どうしようか、大体の人は二話目を見てから続けるか決めるんだと」
「!」
「その大事な二話目に祈織が出ている話を持ってきた。……この話で視聴率が取れると考えたからだ」
「それって……」
「水上麗子と、とりわけ祈織が評価されたってこと。まぁ、関本のオッサンは元々祈織を高く評価してたけど、肝心の局上層がうんと言わなきゃ進む話じゃねぇことはわかんだろ?」
「うん」
「これを機にこの局では祈織はどんどん表に出てこれるようになるってことだよ」
「っ……」
おそらくひとつの局で使われるようになれば他も使うようになるだろうし、と瑞希はポテトチップスを取り上げた。
口に運んで一眞を見ると笑う。
「また泣く」
「泣いてねぇし」
涙ぐんだのを笑われて言い返す。
その返答にすっきりした顔で瑞希は小さく笑った。持っていたグラスをことりとテーブルに置く。
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