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「だから俺は頑張るお前を放っておけなかった。そんなところに惹かれた。祈織さんのために何かしたいって思いは俺も同じだったから。祈織さんと比較されてひどいこと言われてたのは知らなかったけど……うまくいかなくて荒れてた時、それでも祈織さんのためになんかしたいって思ってるんだって分かったから……心配だったんだ。お前、態度に似合わず繊細じゃん」
「……なんなのお前、マジで喧嘩売ってんのかよ」
「何度も言ってるだろ。心配だったんだよ。だって、俺と同じで本当は祈織さんのこと大好きだろ」
瑞希は盛大にため息をついて頭をくしゃりとかき乱すと一眞を睨んだ。
「はー……くっそムカつく。なんでついこないだ自分で気づいたことお前に指摘されなきゃなんねーんだよ」
「え、お前気づいてなかったの? あれだけ祈織さんのこと俺と一緒になって絶賛してたのに」
あの時の視線の動かし方がよかった、あんな表情がよかった、そんなことをドラマを見ながら散々ふたりで語ったと言うのに、と思わずおかしくなって笑う。
「うっせぇよ、笑うな」
「あはは」
さっきとは立場が逆になったようだ。瑞希は睨みながらも拗ねたような顔になって一眞をじっと見つめた。
「お前、本当はもう記憶戻ってるだろ」
「っ……」
「……だてに長い間恋人関係続けてねーんだけど」
「……ごめん」
一眞はあっさりと認めて頭を下げた。それに小さく息を吐いて瑞希はビールの缶を握りつぶした。
「『恋人ごっこは楽しかった? ざまあみろ、俺はお前のそんな顔が見たかったんだよ』って本当は憎まれ口叩いてやろうと思ってたんだよ」
「え?」
「お前を迎えに行ったとき、祈織にな」
「は?」
性格悪いぞと窘めようとした一眞をひらりと手で押しとどめるように瑞希は続けた。
「だけどあんな祈織の顔見たら言えなかった。あの事件があった頃、演技ができなくなってすげぇ苦しいだろう時に俺なんかにかまう余力なんかないってわかってた。でも、俺は祈織に俺を見てほしかった。ああ、言っとくけどこれは恋愛感情じゃねぇからな。祈織は俺にとって恩人だから。……この世界に飛び込んで右も左もわからなかった俺のそばにいてくれて手を取ってくれたのは祈織だ。だから……祈織が自分のことに精いっぱいで俺を見てくれなくなるのが怖かった。問題を起こせば、どうしようもない憎まれ口叩けば祈織は俺を見てくれる、瑞希は仕方ないなって最初の頃のように手を差し伸べてくれるはずだって、そんなガキっぽい理由で俺は我儘になっていった」
「っ……」
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