炎の手

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そして、次の日。 私は三つ違いの妹、イザベラを連れて王宮の庭に来ていた。普段着ているドレスにポケットはない。なので、精霊を宿すときはポケットのある羽織を一枚着て準備しておかないといけない。目の前には枯れ木の山がある。マッチ棒に火をつけて、私はそっと投げた。 「炎の精霊さん来てくれるかなぁ」 「お母様が応援してくれたもの。きっと来てくれるわ」 イザベラと手を繋ぎながらドキドキしていた。ゆっくりと炎が大きくなっていく。小さな炎の精霊たちが生まれる。精霊のほとんどは会話ができない。でも、主に魔法を与えてくれる精霊だけは会話ができる。 やがて、見上げるほどの大きな炎が、ゆっくりと渦を巻くように流れが変わった。そして、現れた炎の精霊はとっても美しかった。オレンジ色の長い髪も白いドレスも燃えていて、顔には色がなかった。それでも、凹凸があってどこが目なのか、口なのかはちゃんとわかる。 「あなたが、炎の精霊?」 「そうよ。あなたは、どうして私たちの力がほしいの?」 隣にいるイザベラが興奮しながら何度も私の名前を呼んでいる。私はイザベラの手を離して、炎の精霊に手を差し出した。 「私は凍てつくように寒いこの国の、国民たちの生活を暖められるように願って、貴方を選びました。もし、力を貸してくれるのなら、私は国民のために、あなたのために、この身のすべてを捧げます」 「素晴らしい夢ね」 精霊が微笑んでくれたのがわかった。差し出した手に、精霊も応えてくれた。触れたその手はちっとも熱くなんてなかった。小さな精霊たちも集まって、辺り一帯が真っ白な光に包まれる。広げた手のひらをゆっくりと閉じて、私はポケットの中に手を入れた。 そして、炎は跡形もなく消えた。  魔法が使えるようになった実感はどこにもなかった。 「お姉様! 魔法を見せてみて!」  キラキラと輝く目でイザベラは見つめる。儀式は終わった。だが、本当に魔法が使えるかなんて、自信がなかった。それでも私は、ポケットからそっと手を出す。まずは辺りの雪が溶けるようにイメージをして、タクトを振るように手を動かした。  すると、目の前の雪に小さな炎の精霊がたくさん宿って、勢いよく雪を溶かしていく。雪で隠れていた草木が顕になって、私は手も胸も震えていることに気づいた。本当に炎の精霊が宿ったのだ。炎の精霊は気難しいとも言われている。なのに、こんな簡単に炎の魔法が使えるようになった。 「すごい……」  心の底から漏れた声に、イザベラが頷いている。私が、この国を救えるのかもしれない。
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