炎の手

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 走ってきたのだろう。息を切らしながら、イザベラが私の手を握った。 「イザベラ……。でも、どうやって? あなたはまだ魔法が使えないでしょう」 「先ほど、精霊から力を借りてきました」  よく見ると、イザベラは私と同じ羽織を着ていた。私の手を離して、イザベラは両手を空高く掲げた。なにが始まるのだろうと見つめていると、ポツリとなにかが落ちてきた。雪とは明らかに違う感触。  もしかして、雨? そう思った瞬間には、全身がずぶ濡れになるほどの大量の水が降ってきた。初めて見る雨に感動する余裕はなく、顔を上げた。街中に広がった炎が少しずつ鎮火していく。 「どうして……」 「この国には雪が多いぶん、綺麗な水というものが少ないです。雪解け水を飲んで身体を壊す人もたくさんいます。だから私は綺麗な水を操れるようになりたかったんです。それが、こんなふうに役に立つなんて思ってませんでした」 「でも、いつの間に?」 「お姉様が毎日街に出かけている間、私は魔法の練習をしていたのですよ」  そうだったのか。私は妹の成長すら見ていなかったのだなと気付かされる。魔法の練習にだって付き合ってあげたかったはずなのに、もう私以上に安定して強力な魔法を操ることができるようになっている。 「お姉様。私ともう一度やり直しましょう。次はきっと上手くいきますから」  いつの間にか雨は止んでいた。国民の叫び声も、燃え上がる炎も、黒い煙も見えない。傲慢になってしまった私に、炎の精霊たちはもう一度力を貸してくれるのだろうか。あまりにも図々しすぎるような気がした。  それでも私は、妹と共に国民のために、再び魔法を操れるようになりたかった。
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