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僕のせいで、ごめんなさい。
僕は無意識に、謝っていた。けれどその黒い影は動くこともなく、ただ立ちつくし、こちらを見ているだけだった。あぁ、きっと僕は、許されないのだ。その黒い影は何もしていないのに、僕は自責の念に襲われ、苦しくなる。あの人がどうなったのか、確かめたわけでもないのに、あの人も助からなかったのだ、と思う。
そう、あの人も、と思ったのだ。
その時、黒い影が膨らみ始めた。そしてそのまま広がっていき、僕を覆っていく。不思議な光景だけれど、以前にも見たことがあるのを思い出す。そしてそれは不思議な事でもなんでもない、と僕は知っていた。なぜなら、ここは夢の中だからだ。
目を開けると、周りは雪で覆われていて、それ以外何も見えなかった。
あの時。
柵の手前で必死で転倒し、滑るのを止めようとしたけれど、間に合わなかった。覚えているのは、柵に背中をぶつけた時の痛みと、崖から落ち始めた瞬間の絶望だけだ。
気がつくと、僕は雪の中で凍えていた。痛みは感じなかったけれど、寒さで体が動かず、ただ意識だけはうっすらとあった。生きているのかいないのか、それすら分からなかったけれど、何故か僕は、そのわずかな覚醒と、夢を見ることを繰り返している。たまにこうして本当のことを思い出すけれど、思い出せないときも多く、僕の脳は、夢を現実として、現実を夢として認識し始めている。本当のことを思い出している今でも、もしかしたらこの現実が夢なのではないかと思ってしまうほどに。そしてその中に、幸せに過ごしたいという希望と、助けようとしてくれたあの人はどうなったのかという不安が入り混じっているのだ。
寒い。寒すぎて、寒さすら感じなくなってしまっているほどに、寒い。夢の中でも現実でも、一致しているのは、この積もっている雪が怖くて嫌だということだ。そんなことを思いながら僕は、再び眠り始めた。本当の意味で目覚めるときは来るのだろうか、その時の現実はどちらなのだろう、と思いながら。
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