雪の夜

1/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 窓の外が白いように感じて、窓を開けてみると、雪が積もっていた。それを見た途端、僕は身震いをした。寒さのせいだけでない。僕は雪に、嫌な思い出があるのだ。  それは、友人と、初めて雪山にスキーをしに行った時のことだ。何度か滑ってうまくなってきたと自信を持ち、調子に乗って。速度を上げて滑っているうちに、僕は崖の方に滑り始めていたのだ。気付いた時には勢いがついていて止まれそうになかった。柵はあったけれど勢いが強すぎて、このままでは落ちるのではないかと思った。後ろから声が聞こえ、誰かが僕を追いかけてきてくれているようだったけれど、それも間に合いそうな気はしなかった。そのまま柵が近づいてきて、僕は必死で身体を傾け、無理やり転倒して。  あの時のことを思い出すと、今でも背筋が凍る。それをきっかけに僕はスキーだけでなく、雪が嫌いになった。いや、嫌いというよりも怖いのだ。降っている雪は怖くないのだけれど、積もった雪が怖いのだ。耐えられないくらい。雪が積もっていると想像するだけでも、落ち着かなくなってしまう。  あぁ、これからせっかく恋人とのデートなのに。こんな状態で楽しめるわけがない。今日のデートはやめようと恋人に電話することにした。雪が積もって歩きにくいから、などと言えば理由にはなるだろう。そう思ったのだけれど、電話しようとした直前に恋人から電話がきて、僕はデートを断ることができなくなってしまった。彼女は、雪が積もっていると嬉しそうに話していたからだ。  耐えられるのか。僕は不安になりながら服を着替え、デートの準備をした。頭がしっかり回転していない。彼女と会っても、うわの空でうまく話せないんじゃないだろうか。そんな不安ばかりが襲ってきて、それでもなんとか、僕は支度を整えて家を出た。  雪の積もっているところに出るのは、あの日以来初めてだった。ドアを開けて、一面に広がっている雪を見ただけで、心臓が跳ね上がった。ふぅ、と深呼吸して息を整える。ここはあの雪山じゃない。滑って崖に落ちることもない。普通に歩くことができる。そう自分に言い聞かせて、僕は歩き始める。  しばらく歩いて、僕は耐えられるかもしれないと思った。あれだけ怖がっていたけれど、実際に外に出てみればそれほどでもなかったということだろうか。歩きながら、これから会う彼女のことを考えるようにしていれば、あの時のことを思い出さずに済んだ。そして、僕を待っている彼女の姿が見えてからは、あの時のことなんてすっかり忘れていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!