四つの願い

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第21章 「那美、元気にしてる? 手紙を書くなんて初めてのことで、もう何枚も破り捨ててる。自分の思ったことを文章にするのがこんなに難しくて、もどかしいなんて知らなかった。 私ね、那美に言わなくてはいけないことがあるんだ。ずっと前にゴッホでレジからお金がなくなったということがあったよね。あれ、私なの。ううん、取ったんじゃないよ。レジから店長のかばんに移しただけなの。それを店長が気がつかなくて。那美、疑われてたよね。ごめん。その時は私だって言えなかった。だってあんなおおごとになるなんて思いもしなくて。 この前ね、渋谷で店長に偶然会ったの。その時にこの話になって、それでね、私がやりましたって告白したの。そうしたら今の今まで店長はそのことを知らなかったみたいで、お金も私が入れたバッグの中にそのまま入ってたみたい。 那美、ゆるしてくれる? ごめんなさい。でももうみんな済んだことだから。もう大丈夫だから。だから気にしなくていいんだよ」 第22章 再び僕は彼の隣りであの子を見ることになった。これは夢だと知りながら、それでもその最中にはここで感じること、ここで思うことは全て本気になってしまう。これが夢だから思ってもいないことを言ってやろうとか、彼を騙そうとか、そんなことは一切思わないことが不思議であった。 「4つ目の願いは覚悟して欲しい」 「どういうことですか?」 「途中で止めたければ止めてもいい」 「ここまで来て止めるということはないでしょう」 しかし、それには珍しく彼は返事をしなかった。 「それに今までの3つの願いは何か効果があったのですか?」 眼下のあの子は相変わらず寝たきりだった。 「見返りを求めているのか?」 「見返りなんて求めていません。僕は何も欲しくはありませんが、あの子は僕が願いをする前と何も変わっていないじゃないですか」 「あの子が今の状態から回復するということは、君への見返りではないかな?」 「それがどうして僕への見返りなのですか?」 「それは君がそう望んだからだ」 「確かにあの子が良くなってくれたら、それは僕も嬉しいですが、僕はあの子と何ら関わりがないのです。ですから、僕以外の他の人と同じ立場なのです。もし寝たきりの子が良くなって外に出られて学校に通ったり、仕事に就けたら、それは無関係の人でも嬉しくならないですか?」 「君以外の他の人はあの子のことを知らないし、仮に知っていたとしても、君のようにあの子の為に積極的に願ったりはしてない。彼らはただ見守るだけでしかないのでは?」 「僕だってあの子を見守ってるだけです。僕の願いは僕が直接あの子に何かをするということではありません。僕は何か良い変化が起きるのを願っているだけですから」 「では君はただ見守ってるというだけなのだな?」 「ええ」 「そして何も見返りは求めないと言うのだな?」 「はい」 「わかった。それが4つ目の願いだ」 「え?」 その瞬間彼は消えた。そして僕は暗闇に包まれて眼下にはあの子がベッドに横たわっている姿だけが見えた。
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