四つの願い

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第9章 私と由美子とは同じ大学だったが、ここでバイトをしているうちに仲良くなった。勿論他のバイトの子ともそれなりに仲が良かったが、由美子とは特別だった。 由美子とは、一緒に働いている時だけではなくて、プライベートでも一緒に出掛けることがあった。 「ごめん。今月苦しいんだ」 「那美はおうちにお金を入れてるんだよね」 「うん」 「先月試験だったからあまりシフトを入れられなかったし」 「うん」 「だったらいいよ。私がおごってあげるから」 「え。それじゃ由美子に悪いよ」 「いいって、いいって、私がお金持っててもどうせ無駄遣いしちゃうし」 「うん」 「だから気にしなくていいんだよ」 「ほんとにいいの?」 「うん」 「由美子、ありがと」 実際私はバイトで稼いだお金のほとんどをうちに入れていた。それで遊ぶお金など一銭もなかった。バイトの打ち上げは出席しなかったし、友だちの遊びの誘いはみんな断った。それでいつしか友だちからは誘われなくなった。 それが由美子と知り合ってからは、遊びに行こうと誘ってくれたし、そのお金も由美子が出してくれた。私は本当に悪いと思っていた。いつかきっとお返しするからねと心に決めていた。だからせめてもの恩返しとして、2人が偶然一緒にとっていた講義のノートを由美子に見せてあげたり、時には試験前に勉強を教えたりしていた。 私はその日、結局授業には出られずに、勿論夜からのバイトにも行く気になれず、ひとり大学の食堂にいた。そしてこのことを由美子に話そうかどうかをずっと悩んでいた。 由美子だったらきっと私の無実をわかってくれると思った。そして遂に思い余って、由美子がいつも時間をつぶしているテニスサークルのたまり場に行ってみようと席を立った。 それは私が余り立ち寄らないキャンパスのはずれのサークル棟にあった。私はおそるおそるその建物の中に入って行くと、そこは壁一面に貼り紙がしてあって、まるでごみ溜めだった。私はそのような場所にいると次第に気分が悪くなって来たが、それでも部屋の数はそんなに多くはなく、ほどなく由美子のいる場所はわかった。 (ここね) そう思ってそのドアをノックしようとした時だった。 サークル棟の中庭で由美子に似た声がした。 それでよく耳をそばだてると、それはやっぱり由美子に違いないと思った。 私は、知らない人が大勢でたむろしてるサークル室に入るよりも、中庭で由美子をつかまえて、それからキャンパスを歩きながら話をした方がずっと気が楽だと思った。それで声のする方に歩き出した時だった。 「バイト先にね。苦学生がいるのよ」 「苦学生?」 「そう。苦労して学生やってる子」 「いまどき珍しくない?」 「だよね。その子の家貧しくってさ」 「よく大学入れたじゃん」 「だから本人も店長に泣きついて私の何倍もバイトしてるよ」 「そうなんだ」 「でもさ、家が貧しいじゃん。だからバイト代みんな親に取り上げられてさ」 「そうなんだ。哀しいじゃん」 「そうそう。それでね、私も可哀そうになっちゃって、よくめぐんであげてんだ」 「めぐんであげてる?」 「うん。だってお金なくってどこにも遊びに行けないんだよ。服だって買えない」 「そうだよね。そうなるよね」 「だからね、私優しいじゃん。だからその子をよく遊びに連れて行ってあげてるんだ」 「偉いじゃん、由美子」 「でしょ?」 「うん。偉いよ」 「でしょ、でしょ」 「うんうん、偉いよ由美子」 「もっと褒めて」 「あはは」 私は由美子とそして誰だかわからない人との会話に凍りついた。 「でもさ、最近うざったくなって来たんだよね」 「どうして?」 「だってそこまでして面倒見てるのに何もないんだよ」 「何もないって?」 「だって普通あるでしょ? 感謝の印というか」 「何それ? そんなの期待してるの?」 「期待なんかしてないけど。でもね、最近は、くれて当たり前だみたいな態度でさ」 「えー、そうなの?」 「そうだよ」 「それ酷くない」 「でしょ?」 「なんかふてぶてしいね」 「それにね」 「まだあるの?」 「私の彼氏取ったんだよ」 「え?!」 「私の彼を色仕掛けで奪ったの」 「何それ」 「だから許せない」 「だよね」 「盗人猛々しいとはこういうこと言うんじゃない?」 「そうだっけ?」 「そうよ」 私は信頼していた人に裏切られてた。
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