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第6章
「お父さん、たいへんだよ」
私は娘の興奮した様子に何があったのかと不安になった。
「102号室の玄関の前にあの白い孤が描かれてる」
「え?」
私は娘に連れられてすぐにそこに向かった。すると一番奥から2部屋目の102号室の玄関の前の通路に、塩のようなもので描かれた白い半円が見つかった。
「みくちゃんのアパートで見たのはこれか?」
「うん」
「これ半円だな」
「ううん。みくちゃんは半円じゃなくて弧だって言ってたよ。だってまっすぐの棒がないから」
私は娘に言われてそれをよく見ると弧の両端はドアまで描かれてあって、そのドアに接して線はなかった。
「これが半円か弧で何か違うのか?」
私はその図形の書き方に何か特別な意味があるのかと思い、娘にそう尋ねた。
「半円だったら、その線の中に入っても大丈夫らしい。でも弧だったら、その線の向こうはそのドアから中の部屋とつながっていることになるでしょう」
「そうなんだ」
私は娘の答えにわかったようなわからないような返事をした。
「この部屋には誰も入れないで。ね、お父さん、お願い」
娘は必死になって私にそう言った。しかしそれからすぐにその部屋を見たいという学生がやって来て、私はその部屋を彼に貸してしまった。娘は激怒して、自分は知らないからと私をなじった。
「この線は何ですか?」
その学生がその部屋を内覧した時に私にそう聞いて来たが私はそれを上手く説明出来ずに口ごもってしまった。すると不動産屋がきっと子供のイタズラでしょうと言って、その線を足で消した。入居した学生はそれから数か月して突然そこを出て行った。その後には例の不動産屋が事務所代わりに使いたいと言って来たので彼に貸すことにした。しかしその彼も不動産屋を突然廃業してしまったとかで、そこはそれ以降ずっと空室になっている。
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