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102号室
第1章
「あ、すみません」
バイトの面接に向かう為、玄関のドアを開けた瞬間、目の前に二人の男性が立っていた。
「すみません。水道局の者なんですが、ちょっとお隣の人のことでお伺いしたいのですが」
「隣って?」
「101号室です」
「あ、はい」
「101号室にはどなたかいらっしゃいますか?」
「さあ、どうでしょう」
「水道の使用開始の申し込みはあったんですが、全くメーターが動いてないので、誰も住んでいないんじゃないかと思いまして」
僕はそう言われて確かに隣から何か物音がするのを聞いたことがないと思った。
「こちらは大家さんなんですが」
すると水道局の人はその隣に立っていた人を紹介した。僕はそれが大家さんだと言われてあわてて頭を下げた。
「大家さんは確かに神無さんという人が入居しているというんですがね」
「はい。入居の手続きも半年前に済ませていて、家賃もちゃんと振り込まれています」
「それで実際に大家さんにもご足労願って来てみたのですが、ちょうどお隣のあなたとお会いできたので、お話を伺いたいと思ったんです」
水道局の人はそこまでしゃべると次は僕が話す番だと言わんばかりに沈黙した。
「お隣から何か音がしたことはありません」
仕方なく僕はそう言った。
「会ったことはありませんか?」
「はい」
僕が少し不機嫌にそう言い切ると水道局の人と大家さんは顔を見合わせて困ったという顔をした。しかし困ったのは僕の方でそんなことで時間を取られていてはバイトの面接に遅刻してしまう。それできっぱりと言うことにした。
「すみません。急いでいるのでもういいですか?」
「あ、こちらこそお時間を取らせて申し訳ありませんでした」
僕は水道局の人の話が終わるか終らないところでその場を駆け出した。
(しまった。鍵を掛け忘れた)
アパートから少し行ったところで僕はそのことを突然思い出した。でも、今から戻ったら面接に間に合わなくなるし、あの二人がまだいそうだったので、そのまま駅に向かった。
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