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その瞬間、数歩走った西門が飛んだ。目がずっと上を睨んでいる。踏み切った足が地を離れ伸ばした腕が伸びて行く。遥か遠いゴール。指先がボールを押し運んでいく。まるでスローモーションのように秒刻みに見えた。
誰も手出しができない。誰も追ってこられない高みへ。西門だけが硬質の翼を持つようだった。
ダン! ピピーー!
西門が地に降りる音とホイッスルの音が同時だった。タイムを取ったのは相手チームの監督だった。
「すげ〜な、めっちゃ高いやん」
「あのガタイであそこまで飛ぶか〜」
周りで上がる感嘆の息とざわめき。その中にいて、東雲の心と背中が戦いた。
すごいすごいすごいすごいすごい! 西門! 君ってホントにすごいよ!
頬を上気させて、東雲は駆け去っていく西門の背に呟いた。
西門はタイム中に汗をぬぐいながら、ペットボトルを手に周りを見回した。一階の入り口辺り。目ざとく東雲を見つけたようだ。
「お! 東雲、楽しそうやんけ! お~い!」
さっきまで真剣で引き締まった表情をしていた西門が、嬉しそうに両手を大きく振って叫んだ。周りの視線が一斉に東雲に集まった。
「西門!」
東雲は咄嗟に手を振り返した。けれど、しばらくして周りの視線に気づいてさすがに居心地の悪さを感じた。
ここでは西門はスターなんだな。その友達って…なんか…くすぐったいような恥ずかしいような…妙な気分。
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