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「お~、東雲。待っててくれたんか? 悪い悪い! 何か、ちょっと間が空いただけで身体の調子が違うわ」
「そうなんだ」
いつものように自転車を引きながら東雲は西門の隣に並んだ。
なんて切り出そう…。やきもきしながら待ったのに…いざとなると聞きづらいな…。
ちょっと俯いて口ごもった東雲は自分のローファーの足先を見つめた。
「あのさ…西門。バスケ留学って…」
「ん? ああ、あれは延期になったんや」
響いた西門の声は結構明るい。
「…やっぱり…」
店を直す費用が要るって誰か言ってたもんな…。でも…。あんなに楽しみにしていたのに…。せっかくのチャンスだったのに…。
東雲は顔が上げられなかった。回る車輪に合わせて歩く。
何だか西門の顔を見るのが辛い。無理した顔も引きつった顔も見たくない。
「そうなんだ…。残念だったね…。…悔しいね…」
ため息交じりの小さな声。東雲の言葉は酷く悲しそうに聞こえた。
「わいはいっこも悔しないで」
あっけらかんとした西門の声が返ってきた。
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