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駅に降り、帰り道を歩き出した東雲は周りのビルを見渡した。駅前だけあってさまざまな看板で一杯だ。その中で一際多く彼の目に入ったのは、進学塾のネオンサインだった。
その夜遅く帰ってきた東雲の父親は、テーブルの上に置かれていたパンフレットに気が付いて声をかけた。
「塾へ行くのかい?」
「え? ああ…それは…。実は、アルバイトをしようと思って…」
東雲はいくつかの塾へその足で相談に行った。中学生相手ならなんとかなりそうだ。
「アルバイト? こづかいが足りないのか?」
「そうじゃなくて…。社会経験のためにどうかと…」
父親は背広を脱ぎながらちょっと首を振った。きちんとハンガーに掛けてしまうあたり几帳面な性格が覗く。母親の心配をよそに部屋が散らかることもなく彼らの生活は結構ちゃんとしている。
「社会経験は大事だね。けど…今しなくちゃならないことかな?」
あ~、やっぱりなあ。父さんはそこらあたりはちょっと頭が固そうだもんなあ…。
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