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東雲はしばらく視線を迷わせたものの正直に西門の話を始めた。家族間で嘘をつくことが嫌だったのだ。父親はテーブルの彼の向かいの席に座ると、真面目な顔で頷きながら話を聞いていた。
「ふんふん、なるほど。それで、潤は友人のためにひと肌脱ぎたいと江戸っ子みたいなことを考えているわけだね?」
江戸っ子って…。時代劇じゃあるまいし。案外、面白い人だよな、父さんも。
「それはとてもいい心がけだ。素晴らしい。私も応援したいよ。けれど、それにはひとつ、大事な視点が抜けていると思うんだけれど、どうだろう?」
人差し指をくるっと回して、東雲父は彼の顔を覗き込んだ。
大事な視点…? なんだろう。嫌だなあ、父さん、会社の重役の顔してるよ。俺は部下じゃないっての。
「なに?」
「相手の考えだよ。君が働いたお金を、その友人は受け取るかな? どうだろう」
「あ…」
言われて初めて、東雲は気が付いた。
俺のバイト代なんて、金額はしれてるけど…。受け取ってくれるかな…。いや、きっと西門のことだ。
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