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「自分、めっちゃ別嬪さんやな」
前の席の生徒が振り返って、いきなり言った。ツンツンの硬そうな髪に彫りの深い焼けた顔、太い眉とちょっと上がり気味のひし形の目。そいつが視界の上の方で笑ってる。
「え?」
なんだって? 自分って、俺のこと? たしか、別嬪って美人ってことだよな。はぁ?
めんくらって当たり前だ。東雲は意味が解らず声を上げた。
「さっすが、東京モンやな~」
いやいやいや、俺、男だし東京関係ないし。
そう言いかけて、ここが関西の男子校であることを思い出した。
転校初日。自己紹介が終わって、この窓際の席に座って何秒というところ。銀縁のメガネをかけ直して東雲は口を開こうとした。
「……」
ちょっと待てよ、今授業中じゃ…。
そいつの顔の向こうに黒板に何かを書き込む教師の背が見えた。
今どき黒板にチョークって珍しいかも…。前のガッコじゃ電子黒板がほとんどになってたよな。
「わい、西の門って書いて、西門、言うねん。西門圭一。なあ、帰りにお好み焼き食いにいけへん?」
「…え?…あ、いや…今日は、用事があるから…」
とっさにした返事。
いきなり初対面で誘うか、フツー。なれなれしいなぁ。
だらしがなくネクタイを緩めている西門の様をほんのちょっとだけ斜めに見る。
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