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「あ…ありがとう。じゃあ、昨日の数学の…」
ほっとした表情が、東雲のメガネの奥に浮かぶ。彼がカバンから教科書を出すと、西門が身体をねじって東雲の机に肘をついた。
だいたい、してもらうばっかりじゃ寝覚めが悪いもんな。
東雲は準備体操のようにシャープペンシルをカチカチいわせながらノートを開く。そして昨日、西門ができなかった問題を書き出した。
「ええっとね。こ~いう問題、ここんとこ。この公式を当てはめるとね? こうなるだろ? それで…」
細く長い指が滑るように紙の上を動く。
「…ここまで、解る?」
ん? 聞いてる? 何か、視線がちゃんとノートに当たってないぞ。
東雲はちょっと眉を寄せて西門を見上げた。
それで、西門はハッと気が付いたように頭を掻いた。
「ゴメン。見惚れてたわ…。自分、男やのにキレイな~」
サラッと口にする。とくに照れた様子もない。まじまじと東雲の目を覗き込む。
「まつげ長っ! 目ぇが茶色や! 髪も。何や、外人さんみたいやで~」
キレイってなんだよ…。外人さん…。できたら他の言い方がいいよな。カッコいいとかさ。ジロジロ見るなよ。
「あのさ、女の子じゃないから別に喜ばないよ?」
大体さ、何で思ったコト、すぐに口に出すわけ? 返事に困るだろ、そんなの。人がせっかく、数学…。
そう思うものの、気を悪くしたわけではない。柔らかな関西弁が不思議と耳に心地よい。
西門は指で1を示して、ニコッと笑った。
「悪いけど最初から、も一回かまへん?」
あ、もう~。そ~いうトコは遠慮ないし! これじゃ嫌って言えないだろ!
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