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座り込んでいた頭の上から声がして、東雲は驚いて上を向いた。
覗き込んでいるのは白衣を着た若い男だった。少々顔が四角く、口角の上がった口許と二重の目が優しそうな雰囲気の男だ。歳は30ぐらいだろうか。
「あれ? 君は確か転校してきた…。僕は立花。養護教諭だよ」
「…あ、保健室のセンセ?」
東雲が慌てて立ちあがろうとすると、立花は肩を押さえてそれを止めた。そして、振り返ると校舎の一角を指さした。
「あそこが保健室。君がボールに当たりそうになったのが見えたんだ」
ああ、それで。うわ、みんなに見られてたよな~。あんな真ん中だもんな~。
「日頃運動していない人間が急に走ると、酸欠で頭がぼーっとすることがあるんだよ」
「ああ、そうなんですね。…なるほど…」
で、俺、気が付かずあんなトコまで迷い込んだんだな。
納得した東雲は何度も頷いた。
「保健室で休んでいくかい?」
いや、さすがにそこまでは…。
「ありがとうございます。でも、もう大丈夫ですから…」
東雲は立ち上がって胸の前で小さく両手を振った。
「そう? じゃあ、調子が悪かったら、遠慮しないで保健室においでよ」
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