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「え…。学習院とか…。あ、池袋が近いよ。あの…ありがとう。もう前向いてくれて大丈夫だから」
だから、ちょっと距離が近すぎるって…。
一応、遠慮しながら水を向けてみる。
「ふ~ん、池袋の近くか~。よう分からんけど、芸能人とか結構、会うん?」
前を向く様子はまったくない。
「あんまり…興味ないから…。あのっ、前向いてくれる?」
思い切って東雲は指を前に差して強い口調で言った。
これくらいはっきり言えば通じるよね。
「お、そやな」
が、西門は口でそう言いながらも全然動かない。
「な、自分、ちょっと笑ろてみ~や」
え? いやいやいや、おかしくもないのに笑えないだろ。何言ってんの?
「こら~! 西門! 前向け!」
いきなり響いた怒鳴り声。中年の教師はチョークを投げるそぶりで西門を指さした。
うわ。ほら! 怒られた!
思わず首を竦めた東雲。なのに本人はのんびりとした動きで教壇の方に身を捻った。
「あら、当たってもたがな。何なん? 橋本センセ」
「何なん、ちゃうわ! 聞いとんのかいな。問3、やってみぃ」
橋本はちょっと小太りで天然パーマのいかつい四角い顔をした教師だ。いらついたのか、せわしなく指で黒板を叩く。
「はいな」
悪びれず西門は立ち上がった。そして黒板に向う。東雲はその後ろ姿に目を見開いた。
うわあ、デカい…。すごい背が高いんだな、西門って。190ぐらいかな…。足も大きいなあ。あのバッシュ、サイズはいくつぐらいなんだろう。
黒板まで大またで数歩。西門が乗ると木の教壇がミシと音を立てた。
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