震えるクチビル

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「俺じゃダメですか?」 ドラマみたいだと思った。 綺麗な顔をした男の子がまるでセリフみたいな言葉を美しい唇で紡ぐから。 頭が何も指令を出してくれないから、唇は空気を柔らかく喰むようにただぱくぱくと動くだけ。 「あの人には彼女がいるじゃないですか」 大きな瞳が目の前で不安げに揺れている。少しだけひんやりとする公園のベンチも、頬を撫でる風もいつもと変わらないはずなのに、体を駆け巡る血が突然熱を持ってしまったかのよう。 心臓が少しずつ早鐘を打ち鳴らし始めて、それに耐えられないというように、いつの間にか大きな手に包まれた指先が痺れていく。 「……センパイ、俺を」 私に触れた手がとても熱いから、 「好きになってよ」 男の子なんだって思った。 「待っ……」 「やだ、待たない」 瞬く間に、なんてスムーズにはいかなくて。大きな瞳が熱をはらんで私を捉えて、少しずつ近づいてくる。 私の頬に触れた手があまりにも優しくて、ほんの少し、ほんの少しだけ震えているから、私はただゆっくりと瞳を閉じた。
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