いなかったことに。

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 ***  あたしは大人だから、いじめなんて真似はしない。大体、中学受験だって控えているのに、変なところで評価下がって成績が悪くなったらたまったもんじゃないではないか。  それに、“いじめをやった者が一方的に加害者”ということにされて糾弾されてしまうのも腹立たしい。あたしから言わせれば大抵、いじめられる人間にだって問題がある。それこそ、あの亜美子のような人間はクラスのみんなに嫌われてるだろうし、虐められたって文句言えない立場だろう。だってみんなに迷惑かけているし、クラスの雰囲気を悪くしている。むしろあたし達の方が被害者ってなもんだ。  大人しくて、地味で、眼鏡で、不細工な彼女。男子だってあんな女、気にも留めないに違いない。  いっそ誰かあいつを標的にしていじめてくれないかな、不登校に追い込んでくれないかな、ということを心の隅でずっと願っていたのだった。願うだけなら自由だろう、実際あたしはあいつに対して何かしたわけではないのだから。  そんな亜美子の一番腹立つところは――自分への敵意にさえ鈍感だということだった。  多分、このクラスの中でも特にあたしがあいつを嫌っている、という事実に一切気づいていなかったのだろう。あいつがいないところで悪口を言って発散したり、Twitterの鍵アカウントで愚痴を吐くくらいしかしていなかったのでそれは知らなくても無理はないが。でも普通の人間ならば雰囲気とか、言葉の刺々しさでなんとなくわかってもいいはずだ。  だというのに。 「あ、あの……」  その日。あたし達はクラブで発表会の準備をしていた。まんがクラブのメンバーで、いくつか班を作ってそのメンバーで画用紙に大きな絵を描いて、体育館の舞台の上で報告するというものだ。  そんな時まさかのまさかで、あたし、アヤちゃん、ユマちゃんというメンバーに声をかけて来た馬鹿がいたのである。それがあの亜美子だった。いつもぼっちの彼女は、相変わらずメンバーにあぶれてしまい、誰からも誘われなかったということらしい。仕方なく、同じクラスのメンバーがそろっているあたし達に声をかけてきたということのようだった。 「仲間に、入れて貰える?知ってる人、そんなにいなくて……」  うええ、と思ったのが本音だ。正直、他の班に行けよと思ったのはあたしだけではあるまい。  けれど、こいつの面倒くさいところは、断るとすぐ先生に言いつけるということなのだ。そもそもこのやり取りだって先生が見ているだろう。いじめた、仲間外れにした、なんてこっちが悪者にされたらたまったもんじゃない。 「……いいけど」 「ごめんね、ありがとうね」 「……別に」  ああ最悪。そう思いつつ、あたしは彼女を招き入れたのだった。その時、他のメンバーと目くばせしたのをよく覚えている。  きっと思っていたのは同じことだろう。仲良し三人組の中に、異物なんて必要ない。どうにかしてこいつが自分から出ていくように仕向けられないものか、と。
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