いなかったことに。

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 ***  ああ、なんでこんなことになったのだろう。  春休み最後の日、あたしはアヤちゃん、ユマちゃんと笑顔で別れた。それは間違いなく事実だ。  そして春休み明け、わくわくしながら始業式へと向かった。  新しい六年生のクラスでも、また彼女たちと一緒のクラスになれたらいい。願わくば、あの亜美子と別のクラスであらんことを。それだけを祈って、クラス表を見たというのに。 「なんで」  唖然とした。亜美子と同じクラスだったから、ではない。 「なんで、なんで!?」  どこにもあたしの名前がなかったからだ。一組、二組、三組、四組。舐めまわすように何度確認しても、あたしの名前がどこにもない。  間違って他の学年に書かれてしまっているのではとも思ったが、念のため確認した四年生や五年生のクラスにもなかった。まるで、あたしの存在が消されてしまったかのように。  しまいには。 「えっと……」  去年の担任だった太田先生は、困ったようにあたしを見て言ったのだった。 「あなた、誰かしら?転校生?」 「え」  先生だけではない。群衆の中から探し出して声をかけたアヤちゃんやユマちゃんも、あたしに対して同じことを言った。去年同じクラスだった、友達だったと言っても信じてくれなかった。  それだけじゃない。  朝はあたしのことを笑顔で送り出してくれたお父さんやお母さんも。あたしが携帯でメールを送ったら、“どちら様ですか?”と返ってきた。“うちには子供なんていませんけど”とも。  まるで、誰もあたしのことを知らない異世界に来てしまったかのよう。まさか、あの亜美子が何かをしたのか。 「ちょっと、何したのよ!あんた、あたしに何したの!?なんであたしのこと、誰も知らないわけ!?もとに戻しなさいよ、ねえ!!」  魔法なのか、呪いなのか、あるいはあたしだけ“あたしのいない世界”に飛ばされてしまったのか。  確かなことは一つ。亜美子があたしを見て言った言葉だけだ。 「えっと……あなた、だあれ?」  本気で困惑したようなその顔に、あたしは運命を悟るしかなかったのである。
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