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全ての物が焼けて、父や母との想い出の品はないと思っていた。
私を助けた後、息を引き取った母が身につけていた物さえないと思っていた。
もし、あったとしても、過去の私は拒否したと思う。
「裕香、指にはめてやれ」
和樹の言葉を聞いて、左の薬指にはめてみたけど、指輪のサイズが大きくて、中指に指輪をはめ直した。
それでも、ほんの少し大きいと感じる。
母の手の大きさは、もう覚えてないけど、指輪から暖かさが伝わってきた。
「これからも、たまに遊びに来て下さいね」
施設長にそう言われ、私は何度も頷いた。
「裕香、そろそろ失礼しよう」
和樹の言葉を聞いて、ソファから立ち上がる。
「裕香の両親の墓は何処にありますか?」
施設長に、そう聞いてくれたのは和樹。
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