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ええ、浮浪者と会ったのは公園。男は植え込みの向こうから急に顔を出してきた。
白髪交じりの髪やひげは伸び放題。顔は垢だらけで黒く、汚らしかった。男の後ろには汚いテントがある。
なぜ知ってるのかって? 近所の人はみんな知ってる。あの男が住みついて結構経つけど、関わり合いになりたくないから見て見ぬ振り。子供には近づかなように言ってるとは思うけどね。
で……そいつが『何だ、さみしいのか? だったらオジさんが……』とか何とか言いながら植え込みを乗り越えて近づいてきたんで、思わず後ずさりした。酷い匂いに我慢できなくなって、思いきって男に背を向けると走り出した。
彼? そのときはいなかった。なぜって? 知らないわ!
先に公園を出たところで待っていたの。
その公園を出ると、すぐ住宅街になってるでしょう。白い壁にオレンジ色の屋根の似たような戸建てが何十軒も並んでるの。公園の前の通りをまっすぐ行き、次の十字路で右に曲がり、さらに次で左に曲がった二軒目が私の家。
先生は行ったことある? ああ、そうなんだ。刑事さんじゃないものね。
『なぜ殺さなかったの?』
彼は言った。なんか、さも当然のことを聞くような口調で。
私はすがりつくように彼の両手をつかんだ。そして『そっちこそ、私を置いて先に行かないでよ』と責めた。
すると彼は眉間にシワを寄せた。怒ったのかもしれない。
え? そのとき彼が何か言ったかって?
ええ。たしか……『君はあいつが憎いはずだ』って。
それを聞いて何か思い出しませんかって?
思い出すって何を?
とにかく……彼はそれきり黙ったまま、でも私の家へ向かって一緒に歩いて行った。
どうして彼が家を知っていたのか?
知ってたのよ、とにかく。
同じことを何度も聞かないでよ、本当に!
いざ家を前にすると足がすくんだわ、たしかに。
すると
『だいじょうぶ、ぼくが一緒じゃないか』
背後から彼が私の両肩をつかみ、励ますように軽く揺さぶった。手から冷たさが伝わってきて、冷静になれた。居間の窓にはまだ灯りがついていた。二階は全て暗かったし、あの女が起きていることがわかった。
彼は何を言ったか?
『だめだ。ここでやらなきゃ、君は一生苦しむ』
はっきりそう言ったわ。
何をやらなきゃならなかったって?
**に決まってるじゃない!
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