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後編
『君は着替えてきた方がいいね』
たしかに私の姿は血だらけで最悪だった。
彼の黒いマントとその下の服はなぜか少しも汚れていなかったのに。それとも黒いからわからなかっただけかな。
二階に上がって、着替えた。鮮やかなグリーンのワンピース。
そう、今着ているものよ。元々はあの女のものだった。ずっと着てみたいと思っていたの。
ね、けっこう似合ってるでしょう?
……前に勇気を振り絞って貸してほしいと頼んだ時、あの女、困ったような顔して『やめてよ、冗談でしょ』って言ったのよ。たしかに私は……彼女に比べたら醜いかもしれない。でも私だって好きでこんな風に生まれてきたわけじゃない!
あの女はなんで私に殺されたのか、全くわからなかったでしょうね。
そういう女なのよ。無邪気で、かわいくて、無神経。
その美しさを私に毎日見せつけただけでも充分罪深いと思わない?
もっと手短に説明してくれ?
先生が彼のことを話してくれって言ったんじゃないの?
……ま、いいわ。私も疲れてきたし。
シャワーを浴びて、着替えてから下へ降りて行くと、玄関ではすでに彼が待っていた。
すると突然ものすごく疲れを感じたの。たしかに夜中の三時をすぎてたわけだし。
『わかっているだろう。ここにいたら、面倒なことになる。さあ、急ぐんだ』
口で言うほど焦ってるように見えなかったけど、とにかく彼に強く手を引かれて外に出た。
彼がまた公園に戻ろうとしているのに気づいて、立ち止まったわ。
『どういうことなの? あの浮浪者がいるかもしれないのよ』
私が言うと『はい』って、つないでいたはずの右手になにかがねじこまれた。見ると……さっきの包丁だった。
刃の部分にある穴には、まだ血がこびりついてはいたけど、乾いて固まっていた。
『君はあいつを憎んでいるはずだ』
彼にまたそんなことを言われ、何かを思い出しかけた。
でも……目の前が急にぼやけてきて……真っ赤になったの。目の奥がチリチリ痛くなって……
気づくと……男が、あの浮浪者が死んでいた。
本当に覚えてないの。
でも男のテントに入った時……男の饐えた匂いを嗅いだたん、なぜか猛烈に男が憎くなったのは覚えてる。だから……私が刺したのよね、きっと。
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