後編

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「ええ、たしかに(むご)い事件でした。ユウちゃんがあんな目に遭い、妹は……一人で男についていったユウちゃんを……責めたんです。気持ちの、気持ちの持って行き場がなかったんだと思います。七歳のあの子は、たしかにかわいくて、女の子に見えなくもなかった。もちろん咲子だってかわいがっていましたよ。でもあの時のことを咲子は夫に責められ、ついには離婚してしまいました。ユウちゃんもすっかり無口な子になってしまって……」  涙ながらに久美さんは語ったが、別の方面からの証言もある。  岸田は学生時代、友人もそれなりにいた普通の生徒だった。それは大学卒業後、二十三歳でメーカーの仕事に就き働きはじめてからも変わらず、学生時代の友人、会社の同僚ともども、事件について皆一様に驚きを隠せない様子だった。  今年の五月、学生時代の友人の紹介で知り合った亮子さんと結婚。二人を引き合わせた佐倉さん(二七歳・仮名)の話だ。 「たしかにユウキはきれいな顔をしていたから、モテましたよ。ただ、異性に興味がないのかなって思ったことがあります。何人か交際経験はあったようですが、どれも長続きしてなかったみたいです。人の反応に敏感でしたね。ささいなことでも自分を責めてしまうところがありました。  亮子さんは……かなり積極的でしたね、今思えば。どちらかというと彼が亮子さんの勢いに押されて結婚したような……」  亮子さんの親友、美穂子さん(二七歳・仮名)のこんな証言もある。 「亮子は……悩んでました。はっきりとは言ってくれなかったけど、たぶん結婚生活のことで。岸田さんが結婚しても仕事で毎日帰りが遅かったせいだと思うんですけど、亮子は岸田さんが変だって。でも家に遊びに行った時、岸田さんにもお会いしたんですけど、全く変なところなんてありませんでしたよ。亮子にも優しくて、傍から見ていても羨ましかったくらい。  だから今でも信じられなくて……もっと、ちゃんと話を聞いてあげてれば……」  二十五日午前二時二十分頃、巡回していた警官が自分の舌を噛み切って窒息死している岸田を発見。すでに息絶えており、拘置された状態だったため、当然、遺書などもなかった。 ――事件当時、K県警察本部科学捜査研究所にて岸田亮子殺害現場の鑑定を行った三田覚のメモ―― *このことを柏村さんに報告すべきか?
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