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 二日目までは各自レポートを作成したほか、テニスを楽しんだり、川でバーベキューをしたり、どちらかというとサークルの合宿みたいに過ごしたようだ。  ところが二日目の晩、悲劇が起こる。  夕食後、別荘の居間で、学生五人はくつろいでいた。教授もその場にいた。  そこへ突然、大きな熊(おそらくツキノワグマ)が乱入したのである。  熊はあっという間に四人を襲い、彼らの腹を引き裂き、内臓を喰らった。  教授は猟銃で熊を撃ったが、弾は外れ、享子の肩を貫通する。  熊が享子を咥えたまま逃げ、それを追った教授は別荘裏手の崖の上で事切れていた。  享子はその下を流れるS川に落ち、一キロ下流で発見された。彼女が見つかったことで、この惨劇が発覚したのだ。 「……けど、そんな説明、納得できると思うかい? 熊がいっぺんに四人の人間を襲うなんて無理だ。君もそう思うだろう? 実際、現場を見た警官も納得してないようだった」  静也は車から享子を降ろしながら、そう言った。  拘束は解かず、抵抗する彼女を引きずるようにして森の中へ入っていく。  すぐ側に馳蔵の別荘があるのだが、施錠されていて中へ入ることは出来ない。破壊された居間の窓も板で打ちつけられている。  しかし静也が用があるのはそこではなかったから、構わなかった。 「たしかに金目の物を盗られたわけでもないし、外部から人や車が侵入した形跡もない。あの残酷なやられ方を見たら、熊に襲われたというのが一番納得のいく結論なのかも……しれない」  苔むした斜面に時折足を取られながらも、静也は享子の腕を掴んだまま、上へ上へと登っていった。享子も観念したのか、あるいは下手に抵抗すると腕が使えない状態で斜面を転げ落ちていくと気づいたからか、大人しく従っていた。  下草が切れ、ゴツゴツとした岩場に辿り着くと、静也は足を止めた。  享子も足の力が抜けたのか、その場に座り込んだ。  五月とはいえ、ひんやりした山の空気の中、静也は大汗をかいていた。荒い息を整えながらふと享子を見ると、彼女も苦しそうだった。  静也は背中のナップザックからペットボトルを取り出すと、享子の口のタオルを外して、水を飲ませた。喉が乾いていたのだろう。享子も積極的に口をつけて飲んだ。
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